アイスクリームの分子構造 〜“間隙”のおいしさ〜
アイスクリームは年中美味しいですが、最近特においしい季節になってきました。
アイスクリームのおいしさは、なんといってもその「舌触り」が重要です。とろける「滑らかさ」は、アイスクリームに欠かせない魅力の一つです。
そのカギを握っているのが、アイスクリーム中の
- 空気
- 乳脂肪
- 氷結晶
の三点です。
アイスクリームの分子構造からアイスクリームのおいしさの秘密を考えてみます。まずは、空気の役割から。
アイスクリームは、原料である生クリームや砂糖を合わせた「ミックス」を凍らせて作りますが、その製造過程で空気を“巻き込んで”その体積が増えます。その空気の混入量の度合いは「オーバーラン」と呼ばれています。計算式は次のようになります。
オーバーラン(%)=[(ミックスの重量)ー(同体積のアイスクリームの重量)]÷(同体積のアイスクリームの重量)×100
例えば、容量が200 mlで、ミックスの比重が1.10であった場合に、アイスクリームの重さが120 gであれば、
(200×1.10-120)÷120×100=83.3%のオーバーランとなります。
一般的に市販のアイスクリームは70〜100%の高オーバーランのものが多く、プレミアムタイプのアイスクリームやシャーベットなどは20〜30%の低オーバーランのものが主流となっています。
高オーバーランのアイスクリームの場合、だいたい半分は空気を食べていることになります。オーバーランは、その口どけに影響するものですので、商品戦略上の重要なポイントです。
オーバーランの異なるアイスクリームの構造を、冷却装置を備えたクライオ走査電子顕微鏡(SEM)で観察すると次のようになります。低脂肪(脂肪含量5%)のミックスと高脂肪(脂肪含量12%)のミックスから作ったものを示します。
電顕画像で丸く見える部分が気泡であり、低脂肪、高脂肪ともに、オーバーランが低いと気泡の数が少ないことがわかります。オーバーランが高くなると気泡の数が増加し、さらに気泡の形は、低脂肪ではオーバーランが30%と比較的低い状態まで、高脂肪ではオーバーランが60%と中程度まで、比較的丸い球状の状態を維持しています。
さらにオーバーランが高くなると、気泡が変形する度合いが大きくなっています。これは、過剰のオーバーラン時の気泡の安定性には、気泡を形成する膜の“質“が影響することを意味しています。
さらに、フリーザー出口のできたてのソフトアイスクリームの気泡の構造は、球形で数が多いのに対しては、容器(150 ml)に充填すると気泡数が減少します。その際、オーバーランは変化しないので、気泡の粒形が大きくなります。特に大きなカップ(950 ml)に入れるとより気泡が大きくなる傾向がみられます。
気泡の粒形分布を調べると、気泡の直径は、容器に充填すると分布の幅が広くなり、平均直径が大きくなる傾向があります。
製造直後のアイスクリームに抱き込まれた気泡は小さく、均一に分散されています。この事実は、作りたてのアイスクリームが滑らかであることに、気泡の数と分布と大きさが影響していることを意味しています。
さらにこの気泡の安定性には、乳脂肪が大きな役割を担っています。乳脂肪のアイスクリーム中での働きについては、また次にでも。
References