幸せホルモン「オキシトシン」から思う震災1年
人に愛情や信頼の感情を呼び起こすホルモンに、「オキシトシン」というものが知られています。
オキシトシンは、授乳する母親の脳内で分泌され、母子の愛着の関係を形成したり、愛すべき対象や大事にする相手を心に刷り込むという、いわば「愛の物質」として知られていました。
ですが、2011年1月に『米国科学アカデミー紀要』という科学雑誌に掲載されたある学術論文によると、オキシトシンは別な「側面」を持っていることが明らかになりました。
その論文の実験によると、オキシトシンは、同じグループに属する仲間への愛情を増やすが、自分のグループに属さない人を排除する可能性があるということです。すなわち、オキシトシンは、「“愛情”ホルモン」ではなく、「“愛憎”ホルモン」ではないかということです。
確かに、チーム愛、郷土愛、愛国心など“内側”への愛情が強い人ほど、そのグループの“外側”に対して、「敵対心」を持つ人が多いと感じていたので、そのオキシトシンの“表”と“裏”の作用に妙に納得したのでした。
おそらくヒトの進化上、このオキシトシンは、自分の所属する「内集団」に愛情を傾ければ傾けるほど、「外集団」から自分を守ってくれるはずだというある種の見返りのために体から分泌されてきたのでしょう。
明日で東日本大震災から1年。
最近の被災地のがれき処理の受け入れ・拒否の問題、「食」の風評被害の報道などに触れると、被災地を自分の「内集団」として考える方、また被災地を自分とは関係のない「外集団」として考える方などに、このオキシトシンの表裏一体の作用を強く感じます。
今後の「防災」や「減災」を考える上で大切なことは、東日本大震災やこれまでの震災を「対岸の火事」ではなく「自分の所で起きた火事」と捉えて、被災者の経験を自分の生活に生かすことでしょう。
被災地での苦しみ・悲しみがまだまだ続く中、オキシトシンの“プラス”の作用範囲が、1ミリでも1マイクロでも広がることを願って止みません。