自分の体が”クラシックカー”から”ハイブリッドカー”に変わる時
最近ちょっとはまっているのが、穂村弘さんのエッセイです。歌人でいらっしゃるだけあって、言葉の選び方に独特の味わいとセンスを感じます。
最近読んだ「本当はちがうんだ日記」。

- 作者: 穂村弘
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/09/01
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その中にあった、ある一節から。
二十代の頃は、食べ物全般に殆ど興味がなかった。ジャガイモ以外の野菜は、どれもなんのために存在しているのかわからなかった。特に葱などは、食べ物とは思えず、鍋に入っている邪魔な飾りのように思っていた。
ところが三十代になった頃から、味覚に変化が起きた。まず、茄子がおいしく感じられるようになった。やがて、グリーンアスパラガスや韮や白菜が好きになり、四十を過ぎてとうとう葱の味がわかるようになってきた。
葱を噛むと皮の間からうまい汁が出てくる。その汁は他の食べ物の味も引き立てる。今では立ち食いのうどん屋などで「葱大盛り」と云っている。
このような変化は、世界が豊かになるという観点からはいいことの筈だ、と思いつつ、その一方で、何故か、そういうかたちで「この世」に馴染んでゆくことに後ろめたさを覚える。
「ナスが急においしく感じる」気持ち、私もよくわかります。
ナスを「色の悪い野菜だなぁ」とか「存在意義がいまいちわからない野菜だなぁ」とずっと思っていましたが、私が大学院生だった頃に、出された焼きナスを生姜醤油で食べたら、飛び上がるほどおいしくて、自分がどうかしちゃったのではないかと心配になった記憶があります。
もっと若い大学生の頃、私の一番テンションの上がる場所は、「すたみな太郎」やホテルのケーキバイキングでした。
学生時代とても貧乏だったので、『食べ放題』という飢えた学生のハートをわしずかみにする看板を掲げた場所は、ある種の”聖地”でした。その聖地に”巡礼”に行った際は、満腹中枢が「もう、かんべんしてくれ」と三回謝るまでひたすら食べ物を胃袋に入れ続けていました。
それが、その数年後には「ナス、うまいよなぁ」とか「すき焼きの野菜たちは、実にいい仕事しているよなぁ」とか語りだし、後輩から「食べ放題に行きませんか」と誘われると、「いやー、現代はもう”量”から”質”の時代だよ。おいしい物をちょっとだけ食べるのが、これからの食のあり方だよ」と急にわかったような顔つきで話していました。
それまでさんざん「北京餃子」に通っていたのに…。

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「食べたいと思うものが、今、自分の体が欲している栄養だ」とよくいわれます。若い時に、炭水化物や脂肪が多い食事を求めるのは、体がそれらのエネルギーを必要としているからです。
だいたい20代前半までは、体のエネルギー利用効率が非常に悪く、食べたものを消費してすぐにお腹が空きます。学生の頃は、ご飯を食べる度に汗がぶわぁと吹き出していたのが、年齢を重ねる度に、どんなに食べても肌はサラっとして、一滴の汗すらかかなくなったと感じた方も多いのではないかと思います。
年をとると、若い頃と同じ量を食べても太りやすくなる要因の一つは、エネルギー代謝に関わるホルモンの分泌量が減少するからです。具体的には、男性ホルモンだとテストステロン、女性ホルモンだとエストロゲンがエネルギー代謝、すなわち脂肪燃焼に関わっています。これらのホルモンは、加齢とともに減少し、だいたい50代で思春期の約半分になるといわれています。
見た目はさほど変わらなくても、年齢と共に、体の中身は劇的に変わっています。自分の体を車で例えるとわかりやすいかもしれません。若い時の自分の体は、燃費の悪い”クラシックのアメ車”であるのに対し、年を重ねた時の体は、燃費が非常にいいプリウスのような”ハイブリッドカー”のようなものです。
中年の男性に肥満が多いのは、車を乗り換えた(体質が変わった)のに、それに気づかずどんどん給油(食事)し、車内(体内)にガソリン(脂肪)が充満している状態であるといえます。
動物たちは、今自分の体が欲している栄養はいったい何で、どの程度必要かというのが本能的にわかっているといいます。私たち人間も、自分の体から聞こえてくる声にきちんと耳を傾けて食生活を送れば、食べ過ぎであったり、栄養が偏ることはないのでしょう。しかし、強いストレスを抱えていたり、食情報が多すぎたり、頭でいろいろ考えすぎると、体からの声が届きにくくなり、誤った食生活を送ってしまうのかもしれません。
自分の体が”クラシックカー”から”ハイブリッドカー”に乗り変わるのは、25〜35才あたりです。きっとその時に、自分の味の嗜好が大きく変わります。
「最近、ナスがやたらうまいなぁ」と感じたら、それは「自分の体が、燃費の良い体質”ハイブリッドボディー”に変わった」というサインです、きっと。