ブルガリア人が自国のヨーグルトを食べなくなっていたなんて
日本人が「ブルガリア」と聞けば、ほとんどの人がヨーグルトを想像することでしょう。これは、もちろん「明治ブルガリアヨーグルト」の影響が大きいためです。どうして「ブルガリア」なのか、「明治ブルガリアヨーグルト」の誕生にはちょっとした逸話があります*1。
そのブルガリアで自国のヨーグルトの消費・消費が落ちていたのが、不況により復活してきたというニュースから。
ブルガリアのヨーグルト復活 不況「安くて健康に良い」
ブルガリアでヨーグルトの生産・消費が回復している。東西冷戦終結や欧州連合(EU)加盟などを通じて食生活に変化が起きたが、金融危機以降の経済悪化のなか、安くて健康にも良い伝統食品・ヨーグルトが見直されているようだ。(ソフィア=玉川透)(中略)
ヨーグルトはブルガリアで「第2の主食」と呼ばれ、元来用途は広い。しかし、東西冷戦後の市場経済導入で西欧の食文化が流れ込むと、若者たちは甘みの強いフランスなどからの輸入ヨーグルトを少量食べるようになった。これも消費落ち込みの一因になったとみられている。
これが08年には19万8千トンまで回復し、09年は21万トン台まで持ち直す勢いだという。協会では、家庭でヨーグルトを作る世帯の割合は07年まで全体の30%台だったが、08年以降は40%台に増えていると見ている。
(朝日新聞 2009年4月29日)
ヨーグルトの国際基準では、必ず二つの乳酸菌、ブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)とサーモフィラス菌(Streptococcus thermophilus)の使用が義務づけられています。つまり、国際的には、この二つの菌を使っていない発酵乳はヨーグルトとは呼べないのです(日本のヨーグルトは特に菌の使用の制限はない)。
ブルガリア菌は、まさにヨーグルトを作るのになくてはならない菌なのに、その名の由来となったブルガリアで国産ヨーグルトが外資に押されていたとは知りませんでした。
家庭での自家製ヨーグルトの製造率が40%というのは、ヨーグルト大国の証でしょう。昔の日本でいうと、漬物の”ぬかどこ”が各家庭にあるような感じなのでしょう。
食文化は、時代とともに移り変わっていくものです。しかし、ブルガリアではヨーグルトが「第2の主食」と呼ばれるくらいの自国のシンボルともいえる食べ物が、ちょっとしたお金の流れで影響を受けていたということを聞くと何とも悲しい気持ちになります。
「若者たちは甘みの強いフランスなどからの輸入ヨーグルトを少量食べるようになった」のも、繁栄している外国の文化に憧れていたためでしょう。食べ慣れている自国のヨーグルトの方がおいしいはずです。外国に旅行に行くと自国の食べ物が恋しくなるように、自国の食文化は失われた時に初めてその大切さに気がつくものです。
以前のブログでも書きましたが*2, *3、金融危機になって「まとも」になっていることは多いと思います。食文化の正常化も金融危機になって良かったことの一つといえるでしょう。