夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

「未来ごはん」と「未来じぶん」

 「食べること」を本格的に考えるようになったのは、20年前くらいからでしょうか。

 アカデミックなポストに職を得たのが、26歳の時でした。畜産物などを専門する研究室に奉職し、卵のおいしさや健康機能に関する研究を中心を行っていました。

 卵の研究は、今も私の専門分野の中心に位置していますが、食の他の事象、たとえば、「おいしさの社会的意義」や「新しい食のテクノロジーの行方」などにも“関心は広がって”きました。

 “関心が移った”というよりも広がっていったのは、おいしさを理解するためには、専門に縛られては太刀打ちできなかったり、未来の食がどうなるかを知るには、多面的な視点がどうしても必要なことが、“専門を超えざるを得ない”理由でした。

 また、今の所属大学で「食と未来」という講義を担当して10年弱が経ち、自分なりに食の未来がどうなるかを絶えずアップデートしながら考察していました。その一部は、ここのブログでも公開しています。

 さらにここ数年、フードテック関係のイベント等に参加させてもらったり、食に関わるいろいろなジャンルの方と話をさせていただいて、「食の未来図」がより具体的に浮かび上がってきました。

 5年ほど前に、「『未来の食』に関して新書を書きませんか」というお話をいただいて、その本をやっと書き上げたのが平成の終わる間際でした。年号が新しく変わった直後に出版できるのは、「これからの食」を考える上で、結果的にいいタイミングだったと思います。

 今回の新書を書くプロセスは、自分の中の「食べること」に対するぼやっとした考えを系統的にまとめるのに、とても貴重な機会になりました。アウトプットがなければ、幅広い視点で食の未来をまとめることは難しかったでしょう。

 私が食の研究をアカデミックの場で行えるのは、あと20年ぐらいでしょう。大学人として前半戦がちょうど終わった中間地点におり、これからの後半戦に向けて、自分の中でひとつの区切りとなる本になったかなと思います。

「食べること」の進化史 培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ (光文社新書)

「食べること」の進化史 培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ (光文社新書)