夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

アルコールで“だし”は取れるのか? その3

 前々回前回のつづき。

 昆布やかつお節など、10種類の食材をほぼ100%アルコールの「スピリタス」で「アルコールだし」をとりました。

 特に、かつお節とミックスナッツからとったものは、水割りにするとかなりおいしいものでした。純度の高いアルコールで抽出したものは、食材の香りを際立たせるための「香り仕上げ調味料」としての利用が考えられます。

 次のステップとして、アルコール抽出した原液を濃縮してみましょう。

 昆布、かつお節、シイタケ、にぼし、ホタテ、ビーフジャーキー、ミックスナッツ、卵黄、桜エビ、天津甘栗からとったアルコールだしを、試験官(きれいに洗ったもの)にそれぞれ入れます。

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 遠心式濃縮機で、減圧下でアルコールを飛ばします。

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 量が多い場合は、ロータリーエバポレーターです。

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 スピンドライすると、このようにカラカラになります。

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 たとえば、桜えびのアルコールだしのビフォー・アフターはこのように。

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 乾燥されて残った濃縮物をテイスティングしてみました。

 すごいです! あり得ないくらいのうまさです!

 今までに味わったことのない濃いおいしさです。

 ほんの少量舐めただけで、口と鼻全体に、うま味やら甘味やら香りがぶわーと広がります。アルコールは完全に飛んだようで、アルコール臭はまったくしませんでした。

 未経験の風味なので、その表現がむずかしいですが、強いていうなら「醤(ジャン)」でしょうか。豆板醤や甜麺醤のように味に広がりはないですが、かつお節なら、かつお節のエキスだけををグーッと深めた単一のシャープな風味の醤といったところです。

 特に「桜えびの醤」は、食べた後、10分くらいずっとエビの濃縮した風味が口腔内に残っていました。口の中でエビがずっと跳ねまわっているような感覚です。おそらく、脂溶性成分が舌から離れ難いのでしょう。

 「卵黄の醤」もこれまでのどの卵料理とも違う風味を持っていました。口腔内に不思議なコクの風味が広がるものです。

 とれる量は、もちろんごく少量ですが。

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 スピリタスからだしが取れるのかという興味から始まったこのチャレンジですが、結論としては、「アルコールだし」もとれますし、それを濃縮すると「醤」的なものにもなることがわかりました。

 また、今回だしが出そうな食材を使いましたが、反対にだしが出なさそうなものの方が、隠れている意外な風味を引き出せるかもしれません。

 トライすれば、まだまだ新しい食は生み出されると感じます。