夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

フードペアリングとファッションの“奥深さ”にある共通点

 先日、ある集まりで、以前アパレル関係、今は食品関係にお勤めの男性の方とお話する機会がありました。その話の中で興味深かったことを一つ。

 その集まりの最初で、私が「フードペアリング仮説」について、ちらっとお話しました。

 フードペアリング仮説とは、簡単にいうと、似た香りをもつ食材同士を合わせて料理を作ると、風味がある程度統一感を持ったまま、おいしさに深みが増すというものです。たくさんの食材を合わせてソースを作るフランス料理などでは、ある程度納得感のある説となっています。

 集まりの打ち上げの席で、そのアパレル関係にお勤めだった方に、ファッションと食の共通点をお聞きしたところ、そのフードペアリング仮説と同じようなことが服飾にもありますねーとのことでした。つまり、服の色も赤と緑のように反対色を合わせるよりも、似た同系色でコーディネートした方が、全体的な“奥深さ”が増すとのことでした。同じ黒い服でも、僅かな違いがあるものを合わせると、それで十分“味が出る”と。

 私と比べてだいぶ先輩の方でしたが、その方のファッションが、今っぽくも清潔感があり、さらに落ち着いた何ともいい雰囲気を醸し出していらっしゃったので、納得感がありました。

 デパート等の化粧品コーナーのようにたくさんの香りが混ざると、人は快の感情を得にくく、かといって単純な香りだけでも人は飽きてしまいます。

 似たような香りの食材なり、似たような色の服を合わせたりすると、その差異がわずかであっても、統一感を持ったまま、より深さを感じるメカニズムなどが、私たちの脳の中にあるような気がします。

 たとえば、私たちが海に浮かぶ島を眺める際、そのままぼーっと景色を眺めながら見る場合と、小さな穴から覗き込んだ場合、小さな穴から見た方が、島の輪郭やそこの植生などがよりくっきり見えることでしょう。

 同じように、食材の香りやファッションの色の“視野”が広すぎると、人の注意が広範囲になって散漫になり、逆に視野の“スペクトル”を狭くする(ただし単一にはしない)と、その狭さの範囲内での違いをじっくり感じるようになり、それが食やファッションの奥深さに繋がっているような気がします。

 同様の傾向が、小説の表現とか、老舗の経営とかなどにも見られる気がします。

 いつか「おいしさの“奥深さ”」を客観的な指標で評価できたらいいなと思いますが、難しいでしょうね。

 ファッション音痴に私にとって、同系色で合わせると深みが出るという話は勉強になりました。

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