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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「なぜ凍結卵は固まるのか」から「次の凍結卵の可能性」まで

食の科学 食品開発 料理・調理

 昨年からブームとなっている「凍結卵」。だいぶ市民権を得てきた印象を受けます。さらに、凍結卵で「卵黄のお刺身」など新ジャンルの料理の開発も進み、凍結卵の世界はまだまだ大きな広がりを見せそうな勢いです。

 もともと、卵黄が固まるゲル化という現象は、加熱、酸、アルカリだけでなく、凍結によって起こることは昔から食品学の分野で知られています。

 凍結による卵黄のゲルの状態は、凍結温度や凍結時間などの影響を受けることが知られています*1

 一般家庭の冷凍庫の温度である-15℃から-20℃がもっとも卵黄の粘度が高くなり(かたくなり)、業務用のディープフリーザーなどの温度帯である-60℃では、ほとんど粘度の上昇は見られず、「冷凍卵」にはならいことが知られています。

 また、-15℃から-20℃で凍結し、凍結時間が長くなると(72時間)、じわじわと粘度が高くなるというデータがあります。

f:id:yashoku:20151005215956j:plain(動物タンパク質食品,p113,朝倉書店(1994))

 なぜ、-60℃では凍結すると、ゲル化が抑制されるのでしょうか。そもそも凍結中に、卵白は固まらず、卵黄だけ固まるのでしょう?

 「凍結卵」が形成されるメカニズムを理解する上でのポイントは、卵黄中のタンパク質と凍結中の氷結晶です。

 -60℃では、卵黄中の不凍水以外の水が微小結晶のまま保持されるのに対し、-20℃では、大きな氷結晶になると考えられている。大きな結晶が形成されると、卵黄タンパク質はかたまりとして押し固められ、解凍後もその形が維持されていると思われます。

 -60℃で保存した卵黄を、-20℃で保存すると、急速にゲル化が促進して、「凍結卵」になることが知られています。これも、氷結晶の巨大化が影響してます。

f:id:yashoku:20151005222740j:plain(動物タンパク質食品,p113,朝倉書店(1994))

 この凍結卵のメカニズムからわかることは、肉を加熱する上で、加熱時間と加熱温度が大切なように、凍結卵を作る上では、凍結温度と凍結時間がとても重要だということです。

 つまり、この凍結温度、凍結時間、そして凍結速度をうまくコントロールできれば、凍結卵のかたさを自由に調節できるということです。かため食感が好きな人には、よりかための凍結卵好を、よりやわらかな食感が好きな人にはそのような凍結卵をといったように。

 さらに、凍結の仕方を工夫することで、卵黄の外側だけをかたくし、内側をそのままやわらかくするといった、“食感のグラデーション”を持った凍結卵も作ることができるかもしれません。

*1:若松利男:食品タンパク質の化学―テクスチャーとレオロジー編―(山内文男編),p.90,食品資材研究会(1986)