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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

“超遠心分離”目玉焼き 食材を“分解する”という調理アプローチ

 以前のエントリーで、生果汁を遠心分離して、密度差のある「“遠心分離”アイスキャンディー」を作りました。

 昔は入手困難だった世界中の食材が、現在比較的手に入りやすくなることによって、食材による料理の差別化が難しくなっている背景があります。そのような状況の中で、既存の食材を遠心分離などを使って“分解する”というアプローチは、新たな料理開発の一つのヒントとなるでしょう。

 その簡単な例を一つ、お見せしましょう。

 私の研究対象である鶏卵の黄身である「卵黄」は、超遠心分離器にかけると、うわずみの「プラズマ」と沈殿の「顆粒」部分にわかれることがわかっています。

 実際にやってみます。

 卵を割って、

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黄身と白身にわけます。

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 卵黄をとり包んでいる薄い膜(卵黄膜)を取り除いて、遠心用のチューブに入れます。

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 20℃、20,000 G(Gは遠心力)、30分の条件で遠心分離するとこのように。

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 底にななめの白っぽい層があるのが見えます。これが顆粒です。うわずみのプラズマを別の新しいチューブにいれるとその違いがわかりやすくなります。

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 左がプラズマ、右が顆粒です。

 文献や書籍で、この二つの一般成分(%)の違いはすでに明らかになっています*1。 脂質とタンパク質に大きな差があります。

水分 脂質 タンパク質 灰分
プラズマ 49 41 9 1
顆粒 44 19 34 3


 また、量的にはプラズマ:顆粒=4:1とのことでしたが、写真を見ると顆粒が少なめでしょうか。超遠心の条件が甘かったのかもしれません。

 この卵黄から分離した、プラズマと顆粒を使ってそれぞれの「目玉焼き」を作ってみましょう。

 型にそれぞれを流し込んで、同条件で焼き上げます。 

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 出来上がりはこちら。

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 左が「プラズマ目玉」、右が「顆粒目玉」です。プラズマ目玉の表面は油が浮いており、顆粒目玉はややつや消しの焼き上がりです。

 断面はこのように。

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 せっかくなので、白身も別に焼いて、これらの目玉を乗せてみました。

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 “ピコピコ感“が強くなりました。

 プラズマ卵黄と顆粒卵黄を食べてみるとおもしろく、風味に明快な違いがありました。

 プラズマは脂質が多いせいか、やわらかくてゴム状、ちょうどチーズのような食感でした。それに対して顆粒は、粉っぽくパサパサした感じで、香りもやや弱めでした。プラズマは脂質含量が高いため、脂質が焼けた際に生じる香気成分の種類や量が多くなっているのではないかと推察されます。

 プラズマ、顆粒にそれぞれにわけた卵黄を使ったオムレツや卵焼きなどは、通常の卵黄を使ったものと味や香り、食感などはおそらく異なるでしょう。より“エッジ“の効いた卵料理になると思います。

 卵黄以外にもいろいろな食材をいろいろな方法で分解するという技術が、食品加工の分野だけでなく、調理の分野においても、新たな料理の開発などにつながっていくのではないかと思います。

*1:中村良編、卵の科学、朝倉書店