夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

「衣・食・住」の順番と「感性・知性」のバランス

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 「衣食住」という言葉。すなわち、衣服、食事、住居は、どれも私たちの生活に無くてはならないものですが、なぜこの順番なのかと常々思っていました。

 人が生活していく上で不可欠な順に並べれば、やはり食べなくては生命活動が途絶えてしまうので、「食」がトップになるのではないかと思います。服を着ないと体温維持や社会的にも問題ですし、家屋で雨風をしのぐことももちろん大事ですが、食べものよりは緊急性が低いように感じます。私が「食」の研究者というのもありますが、「食・衣・住」または「食・住・衣」が、妥当な順番なのではないかと思います。

 単に言いやすいから「衣・食・住」という順番なのかもしれませんが、それぞれを「感性」と「知性」のバランスで考えると、この並びが興味深く見えてきます。

 全く私の主観的な見方ですが、「感性」を「ファッション性」、「知性」を「機能性」とあえて具体的なキーワードで考えてみると、現代社会の「衣」は機能性よりもファッション性が強く、「住」はファッション性よりも機能性が強い感じがします。さらに「食」はファッション性と機能性が同じくらいの割合で存在する気がします。

 つまり、

衣:ファッション性(感性)>機能性(知性)

食:ファッション性(感性)=機能性(知性)

住:ファッション性(感性)<機能性(知性)

となるので、人の感情の「感性」の“含量”の多い順に並べれば「衣・食・住」ではないかという“説”です。

 もちろん、衣服にも防寒等の機能性があって、ユニクロのヒートテックなどはその高機能性が売りとなっています。しかし、多くの方が服を買う時の“上位概念”は、やはり自分の好き嫌いであったり美的感覚なのではないかと感じます。私個人的には、機能性をより強化した「ゴアテックスのビジネススーツ」のようなものがあればいいのにと思っているのですが、なかなか売っていません。

 住居もまた同様で、たとえばデザイナーズ・マンションのように、私たちの感性を刺激するファッション性の高い建物ももちろんありますが、私たちが住居を求める際の基準は、雨風をしのげる、耐震性があるなど、機能性がより優勢であるように感じます。衣服ほどのレベルで、建物自体をデコレーションすることは少ないでしょう。

 「衣」と「住」ともに、機能性やファッション性がそれぞれ欠けているというわけではなく、「感性」と「知性」の感じる比率が異なる、どちらかに偏りがあるという感じがするのです。

  「衣」と「住」に対して「食」は、ファッション性と機能性がともにいい具合で混在しており、また人によってもその割合に大きな幅があるように感じます。レストランのメニューに載っている料理の写真から沸き起こる自身の「感性」は、食事選択に重要である一方、食品成分の栄養性や機能性といった情報による「知性」の影響も小さくないでしょう。特に近年は、健康志向によって「感性食い」よりも「知性食い」の割合が次第に高まってきている気がします。

 この「感性」と「知性」のバランスにおいて、「食」の特異性が見えて来るのではないかと思います。

 もっと広く見れば、世の中のあらゆる商品には、この「感性」と「知性」という“見えないタグ”が独特の大きさで貼られているように思います。例えば、家電製品は機能重視の「知性」寄り、ステーショナリーはファッション重視の「感性」寄りといったところでしょうか。自動車、化粧品あたりになると、結構その判断が難しいですね。

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