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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

塩レモンがおいしくて、塩ブドウがおいしくない理由

おいしさ 食の科学 食材 料理・調理

 前回のエントリーで紹介した自家製「塩ブドウ」。

 あまりの“おいしくなさ具合”にその理由を考えたくなりました。
 そもそも、多めの塩と果物との相性がいい食品の例といえば、ブームとなっている「塩レモン」、そしてウメを塩漬けしたわが国の伝統的な保存食「梅干し」でしょう。
 レモンもウメも、下記の表で示したように果物の中では有機酸の含有量が突出して高いという特徴があります*1, *2
 レモンは5~6%、ウメが4~5%、それ以外の果物はだいたい0.2~2%となっています。ブドウは0.4~1.1%と、ウメやレモンと比べて1/10~1/5程度の有機酸しか含まれていません。

果実名 有機酸(%)
レモン 5~6
ウメ 4~5
パッションフルーツ 0.3~5.0
サワーチェリー 1.2~2.2
ラズベリー 1.2~2.0
スモモ 1.0~2.0
グレープフルーツ 0.8~1.9
アンズ 0.6~1.9
オレンジ 0.4~1.5
ミカン 0.8~1.2
イチゴ 0.5~1.2
パイナップル 0.3~1.2
ブドウ 0.4~1.1
リンゴ 0.2~0.8
モモ 0.2~0.6
バナナ 0.2~0.4

 “塩◯◯”として成り立つ果物は、食品中の有機酸含量が多いもの、より酸っぱい食材なのかもしれません。酸味の強いパッションフルーツを使った「塩パッションフルーツ」などはいいでしょう。
 果物中に合成された有機酸は、収穫後の追熟によって減少することが知られています。酸度が高い未熟の果物ほど“塩◯◯”には向いているはずです。たとえば、リンゴなどは摘果(間引き)した際、未熟果実をそのまま捨ててしまうことが多いですが、有機酸含量の高い未熟リンゴを「塩リンゴ」にすれば、結構いけるのではないかと思います。
 大量に作ってしまったまずい塩ブドウでしたが、それに粉末のクエン酸をふりかけて味見をしたら、格段においしくなりました。ブドウの風味を活かしたさまざまな料理の調味料として使えそうです。
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 塩ブドウを作ってみて個人的に思ったことは、「有機酸と塩の間には、おいしい黄金比」があるのではないかということです。
 酸味と塩味の相互作用としては「味の相殺(抑制)作用」が有名です。
 すし飯に使われるお酢(酢酸)は、添加される塩によってその酸味が抑えられ、味がまろやかなります。また、漬物に使われる塩は、発酵によって生じる有機酸によってその尖った塩味が丸くなり、よりおいしくなります。
 つまり、酸味と塩味は、それぞれ相手の味を抑制し、その抑制によって“バランスのとれたおいしさ”が新たに生まれる感じがするのです。
 熱帯の国々の料理、または夏に食べる料理には、酸っぱい料理が多い印象がありますが、それは汗で奪われた塩分を摂取するのに酸味が一役買っているのでしょう。塩がきつくて食べにくい料理でも、ちょっと酸味があると俄然食べやすくかつおいしくなります。
 酸味と塩味の相互作用が、食品中の有機酸と塩化ナトリウムそれぞれの分子の化学的な影響によるものなのか、それともそれを食べたヒトの生理的な影響なのかは十分にわかっていませんが、どちらも理解しないと、塩レモンのおいしさは解明できないなと感じたのが、今回の“キッチン・チャレンジ”の収穫です。

*1:"Code of Practice" of AIJN, The Association of the Industry of Juice and Nectars from Fruits and Vegetables of the European Union

*2:伊藤三郎編、果実の科学、朝倉書店(1991)