夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「芸術的に見せた料理はおいしい!?」という研究

 グルメサイトで行きたい店を選ぶときや、レストランで写真付きのメニューを見て注文するとき、さらにコンビニやスーパーで食べものを選ぶときなど、私たちは基本的に眼で見た情報を頼りにお店や料理、食べものを選んでいます。

 料理を口にする前には、食品の持つ色や光沢、形などの「視覚情報」のみが、おいしさを判断する材料になります。つまり「おいしさは眼から始まる」といえるでしょう。

 もし料理が“芸術的な形”で提供されたとしたら、実際それをおいしく感じるのでしょうか。そんな興味深い研究が報告されています。

A taste of Kandinsky: assessing the influence of the artistic visual presentation of food on the dining experience

Charles Michel, Carlos Velasco, Elia Gatti and Charles Spence

Crossmodal Research Laboratory, Department of Experimental Psychology, University of Oxford, South Parks Road, OX1 3UD, Oxford, UK

Flavour 2014, 3:7 doi:10.1186/2044-7248-3-7

 実験は、男女それぞれ30人ずつ計60名の被験者(18〜58歳)に、「サラダ」を下のようなシチュエーションで食べてもらって、そのおいしさを評価するというものです。

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 同じ材料を使って、“抽象絵画の父“とも呼ばれているカンディンスキーの「Painting #201」という絵画(A)を元に作ったサラダ(B)、通常通りに並べたサラダ(C)、整理された状態で並べたサラダ(D)の3種類用意されました。

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 複雑性(complexity)、嗜好(liking)、芸術的配置(artistically arrangement)、おいしさ(tastiness)、支払い意欲(willingness to pay)について数値で評価してもらったところ、どの項目においても、“芸術的なサラダ”は他の二つのサラダと比べて有意な差がありました。

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 この結果は、芸術的な方法で料理を提供すると、よりおいしく感じ、支払い意欲も向上することを示唆するものです。当然といえば当然の結果ではありますが、それを実験で証明するのは結構難しいことです。

 食品の視覚的な魅力は、食欲を誘惑する重要なファクターであり、実際に料理の味をも高めるということでしょう。

 シェフの多くが自らの直感と専門知識による料理の提供をしているかと思いますが、この実験のような心理学と認知科学の視点に基いて、食べものの見せ方を研究することは今後ますます大事になってくるのではないかと思います。

 個人的には、カンディンスキー以外の絵画を模した料理はどう感じるのか興味があります。ルノワールやモネはふわふわした料理に、ゴッホやピカソは胃もたれしそうな料理になりそうですね。

 今回の研究は、BBCなどさまざまなメディアにも取り上げられているようで、この分野の関心の高さが伺えます*1*2*3*4

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