夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

食は人の身体と心に影響を与える最大のシグナルである

 先日、カナダから帰国しました。IUFoST(International Union of Food Science & Technology)が主催する国際学会で、フードサイエンスに関する最新の研究やさまざまな知見に触れて来ました。

 学会プレジデントのPingfan Rao氏が、オープニングセレモニーで「食は人類にとって唯一最も重要なものであるため、食品科学は、科学の最も重要な分野の一つに昇格されるべきである」と主張していたのが印象的でした。さらに「普通の人は、普段食べている食品の背後に膨大な量の科学が潜んでいることを認識はしていない」と。

 私たちの身体を構成するものは、私たちが食べているものだけです。食べもの以外にはありません。さらに食べものは、体の組成成分やエネルギーになるだけではなく、おいしいという“シグナル”を私たちに伝え、喜びや幸せなどの感情を引き起こします。

 「食」ほどその人の身体と心の両方に膨大な影響を及ぼすものはないでしょう。人生における食の果たす役割は、どんなに強調してもし過ぎることはありません。食を研究対象に選んで良かったと思います。

 しかし、食べられる側の科学である「食品学」と食べる側の科学である「栄養学」は、食品の複雑系とヒトの体の複雑系が互いに絡み合うため、「食う・食われる」の関係には不確実性が横わたっています。さらに、食にはさまざまなイメージが付きやすく、サイエンス面が“ぼやけやすい”ですが、科学技術の進展によってその謎がじわじわとクリアーになってきている印象を抱いています。

 私たちにとって身近過ぎて認識されにくい「食のサイエンス」が、科学の最も重要な分野のひとつになって欲しいと思います。

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