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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

肉の臭みを消す香辛料の作用は、“香水”と同じ?

 昆布のとカツオ節による「うま味の相乗効果」のように、においにも「香りの相互作用」があることが次第に明らかになってきました。

 たとえば、スパイスのクローブの特徴的な香気成分に「オイゲノール」という分子があります。オイゲノールがにおいの分子受容体に結合し脳へと伝わる信号は、「嗅球」という脳の組織において、肉や魚の臭みとなる「トリメチルアミン」の受容体からの電気信号を抑制する現象があることがわかってきました。

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 同様に煮魚などにはショウガをよく臭み消しに使いますが、ショウガの香気成分である「シネオール」、「ジンギロール」、「ジンギベリン」なども魚の臭み成分であるアミン類より強く感じるため、魚の臭みがあまり気になくなります。

 つまり、肉にクローブの粉末をまぶして焼いたり、魚をショウガと一緒に煮たりすることは、その料理の中から臭いそのものを取り除いているわけではなく、「臭いを“脳で感じなくさせる”」という、香辛料のヒト側への作用だということです。

 醤油や酒、タレなどで加熱したり、酢を加えて酸性にする場合は、化学反応等によって臭み成分が壊されて、臭み成分そのものがなくなりますが、生魚の刺し身に薬味などを使うのは、「“におい”を持って“におい”を制する」現象であるといえます。香水にも、体臭や汗の臭いを消すという消臭作用はありませんので、薬味やスパイスと同様の作用です。

 肉料理や魚料理には、ショウガ、ニンニク、コショウ、山椒、シソ、各種ハーブ、各種スパイスがよくマッチしますが、肉や魚の嫌な臭いをそれらの香辛料のいい香りで“脳内置換”することを、人類はそのメカニズムが知らなくても古代からの知恵で行ってきたのでしょう。

 

脳のなかの匂い地図 (PHPサイエンス・ワールド新書)

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味のなんでも小事典―甘いものはなぜ別腹? (ブルーバックス)

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