読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

フードペアリング仮説 「“科学的”食材組み合わせ」による新メニューの開発

食品開発 おいしさ 食の科学 食材 食の未来 料理・調理 食の情報 分子料理・分子調理 分子ガストロノミー・分子美食学

 よく「日本料理は“引き算”の料理、フランス料理は“足し算”の料理」といわれます。

 日本料理は、余計な調理を極力省き、素材そのものの味を引き立たせることを優先させるのに対し、フランス料理は、多彩な食材を組み合わせ、深みのあるソースが味のベースになっていることがそのゆえんです。

「フードペアリング仮説」とは?

 この足し算の料理には、ある仮説が存在しているといわれています。それは、「フードペアリング仮説 food pairing hypothesis」というものです。

 フレンチなどの足し算の料理は、食材を何でもかんでも合わせれば良いという訳ではなく、食材同士の“組み合わせ”がきわめて重要な役割を担っています。

 ソムリエの仕事などはまさに、料理とワインを“組み合わせる”プロといえるでしょう。

 特に異なる食材を合わせる上で重要なのが「香り」「におい」であり、多くの異なる種類の香りが混在している料理は、あまり好まれない傾向があります。

 たとえば、カレーとバニラアイスとオレンジジュースがそれぞれ好きだとしても、それらの香りが同時に漂ってくる料理は、おいしいとは感じ難いのではないでしょうか。

 また、百貨店の化粧品売場などで、いろいろな香水が混ざったにおいが苦手という人も結構多いのではないかと思います(私のことです)。

 このように、一皿の料理内で、好まれる香りの“数”には制限があるため、「共通する香りを持つ食材同士を合わせると深みが出て、なおかつ統一感のあるおいしい料理ができる(だろう)」というのがフードペアリング仮説の原理です。

食品の香気成分は多種多彩

 実際、食品中に含まれる香りの成分は、単純なものではなく、ガスクロマトグラフと質量分析装置を直結したGC-MS(ガスマス)などで調べると、コーヒーであれば約800種類、トマトであれば約400種類の香気成分が見つかっています。

 しかし、食品中で見つかったすべての成分が食材の香りに貢献しているわけでなく、食材ごとに「香りのキー分子」が存在しています。

 キュウリの香気成分でいえば、キュウリアルコールやスミレ葉アルデヒドという分子があの独特の青臭さを形成する成分として知られています。

f:id:yashoku:20131113194425j:plainFoodpairingより)

 食材中の香気成分を分析し、その香りの種類や特徴をデータベース化することで、食材ごとに共通する香りがなにか分かります。さらに、そのデータベースを活用することで、“科学的な食材の組み合わせ”が可能となります。

 たとえば、チョコレートとブルーチーズは、データベースによって少なくとも73種類の共通した香気成分を持っていることがわかっているため、一見チョコレートとブルーチーズを合わせることは無謀なチャレンジに思えますが、実際合わせて食べると意外とおいしいかったりします。

フードペアリング・ツリー

 このフードペアリングのデータベースを活用し、食材の組み合わせを発見することができる商業的なウェブサイト「foodpairing.com」も登場しています。

f:id:yashoku:20131113194952j:plain

 “香り合わせの良い”食材同士を「フードペアリング・ツリー」というビジュアルで表現するため、科学的な知識がなくてもわかるようになっています。

f:id:yashoku:20131113194707j:plain(Foodpairingより)

 世界一のレストランに選ばれたこともあるイギリスの「The Fat Duck」のシェフ、ヘストン・ブルメンタールHeston Blumenthalらもこのサイトを活用してメニュー開発をしているようです。

 実際、このフードペアリング・ツリーを利用して開発された料理、デザート、カクテルなどがサイトにいくつか掲載されています。

f:id:yashoku:20131113195331j:plain

 最終的に食材同士が合うか合わないかは、人が食べて判断するものですが、料理の世界にもデータベースを活用する「情報学」がついに現れたということが、個人的には印象深い点でした。

参考記事