夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

“Umamiバーガー”から考える「うま味」の存在意義

 前回の「うま味」のブログ記事*1に関連したネタを一つ。

「Umamiバーガー」ってなに?

 現在、マクドナルドで「クォーターパウンダー」の数量限定「¥1,000バーガー」キャンペーン*2が行われていますが、CMからはおいしさ感がにじみ出ていますね。

 バーガーの聖地といえばアメリカ。そのアメリカには「Umami Burger」という知る人ぞ知る、知らない人は全く知らない「バーガー屋」があります。

 そこのシェフのAdam Fleischmanさんが、うま味を多く持つ自然食材や加工食材を使った“めちゃくちゃおいしいハンバーガー”というふれ込みの「Umamiバーガー」を作っています。

 そのレシピも公開されています*3

 その具材を見てみると、熟成によってうま味が増す「牛肉」のパテに、バターで炒めた「シイタケ」、パルメザンチーズをおろして焼いた「パルメザン・チップス」、「オーブンドライトマト」、玉ねぎを40分以上炒めた「カラメルオニオン」といった、かなり強い“うま味ラインナップ”となっています。

 そして調味料も、うま味の強いサンマルツァーノトマトやトマトペースト から作った「Umamiケチャップ」、アンチョビ、たまり醤油、ウスターソースを合わせた「Umami調味料」という凝りぶり。

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 このバーガーに使われている食材の「うま味」である遊離型のグルタミン酸塩(Glutamate)、イノシン酸(IMP)、グアニル酸(GMP)の含量(mg/100g)は文献から次のようになります。

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 アンチョビは、魚に多いイノシン酸が多いのと、発酵の過程でイワシのタンパク質が分解されるのでグルタミン酸が多く含まれており、単独でもうま味相乗効果が高い食材です。

うま味はどこからやって来るのか?

 うま味の“三強”といえば、Umamiバーガーの食材中に多く含まれているグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸ですが、どれも日本人が発見しています。

 1908年、池田菊苗がコンブのうまみ成分としてグルタミン酸を単離し、その後、1913年に小玉新太郎がかつお節からイノシン酸を、1958年に国中明がシイタケからグアニル酸を発見しました。

 うま味が世界でも“Umami”で通用するのは、日本の伝統食品に多く含まれていることと、うま味を発見した日本人の功績が大きく関係しています。

 このうま味の元がどこからやって来るかといえば、もちろん食べ物からですが、その食べ物はもともと生き物です。生きとし生けるものに、うま味分子が含まれています。

 生命の遺伝情報は、「DNA→(転写)→RNA→(翻訳)→タンパク質」の順に伝達されていきます。

 このうち、DNAとRNAからグアニル酸やイノシン酸のような核酸のうま味が生まれ、タンパク質からアミノ酸系うま味のグルタミン酸が分解されて生じます。

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  生き物のセントラルドグマに、うま味が“内包”されているのです。

人がうま味を感じる生物学的意義とは?

 タンパク質は、上の図のようにアミノ酸が長くつながった構造を有しています。グルタミン酸は、タンパク質のなかで最も多く含まれているアミノ酸です。

 タンパク質それ自体には味はありませんが、その構成成分であるアミノ酸には味があります。

 私たちが食品中のグルタミン酸をうま味として感じる生物学的意義は、グルタミン酸をタンパク質の“シグナル”として感じ取ってからだと考えられています。

 つまり、タンパク質はヒトの生命維持に不可欠な成分なため、そのタンパク質の分解物であるグルタミン酸に素早く感知することは、その食品にタンパク質が含まれていることを探し当てるのに有利だからです。

 同様に、甘味を持っている“糖”は体にとってエネルギーの元となる重要な栄養素ですから、甘味はエネルギーのシグナルといえます。

 では、アミノ酸のグルタミン酸に対して、核酸系のイノシン酸やグアニル酸をうま味として感じる生物学的意義は何でしょう。

 DNAやRNAなどの核酸成分は、生体内でデノボ(de novo)合成というプロセスで体内で作れるため、体に必須の栄養素ではありません。

 そのため、核酸は栄養素としては長い間注目されて来ませんでした。大学で使われている栄養学の教科書でも、核酸の栄養についての記載はほとんどありません。

 しかし、核酸を食事から摂ることで、サルベージ(salvage)合成という簡略化した再合成プロセスを経ることで、すばやく核酸を体内に供給できます。

 実際、感染症や成長著しい新生児など生体がストレスにある場合、核酸は体内の合成だけでは必要量に満たないとされています。母乳にはイノシン酸などの核酸系のうま味成分を多く含んでいることからも、核酸の重要性がわかるでしょう。

 最近では、このような核酸の栄養生理学的な側面が明らかになりつつあります。

 たとえば、新陳代謝を活発にし、老化を防ぐ働きがあることや*4、アレルギー予防*5などが報告されています。

 イノシン酸やグアニル酸などをうま味として感じるのは、ストレスを和らげる核酸成分を摂るための“シグナル”としての働きがあるのかもしれません。

 東日本大震災で被災中、私はうま味の効いた「おいしい料理」を強烈に欲していたのですが*6、ストレス緩和成分である核酸を体が暗に求めていたからのような気がします。

 ちなみに、グアニル酸源である干ししいたけは、水で戻すとリボ核酸に分解酵素が働き、グアニル酸が増えるそうです*7

 まぁ、シイタケ得意ではないので、家で料理にシイタケは使わないんですがね。

 関連お勧め記事

 

*1:昆布と椎茸の“合わせだし”が最強の理由 うま味「相乗効果」の分子メカニズム - 夜食日記

*2:QUARTER POUNDER JEWELRY | クォーターパウンダー BLT | キャンペーン | McDonald's

*3:Recipe: Umami Burgers, Rising Star Chef Adam Fleischman, Umami Burger, Los Angeles, CA

*4:中村 丁次 (監修) 、栄養の基礎がわかる図解辞典、成美堂出版、2005

*5:上野川 修一 (編集) 、食品とからだ―免疫・アレルギーのしくみ、朝倉書店、2003

*6:災害時だからこそ、おいしいものを! - 夜食日記

*7:おいしさの科学シリーズ vol.4 だしと日本人、エヌ・ティー・エス、2012