夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

昆布と椎茸の“合わせだし”が最強の理由 うま味「相乗効果」の分子メカニズム

 私が「卵」の研究者だからかも知れませんが、「茶碗蒸し好き」と公言する方に、かなり会ってきた気がします。

 フタを開けると立ち上がる上品な香り、つるりとした食感、そして日本人の遺伝子に組み込まれたほっとする「ダシ」への安心感などが、満腹でも茶碗蒸しがぺろりとなくなる要因なのでしょう。

 茶碗蒸しの“ベース”となるのは、溶き卵と「出し汁」を合わせたものですが、その出し汁として「“昆布”と“干し椎茸”」から取った「合わせだし」は最強です。

 味の基本味の一つである「うま味」には、アミノ酸である昆布のうま味成分の「グルタミン酸(Glu)」と、核酸系成分であるカツオ節の「イノシン酸(IMP)」やシイタケの「グアニル酸(GMP)」などが知られています。

 「昆布とカツオ節の合わせだし」や「昆布と椎茸の合わせだし」に見られるような「うま味の相乗効果」は、日本人であれば誰しも身近に感じたことがある現象でしょう。

 成分的には、昆布のグルタミン酸によるうま味を、かつお節のイノシン酸や椎茸のグアニル酸が“増強”するのです。

 イノシン酸のうま味の「相乗効果」の分子メカニズムについては、4年以上も前の私のブログでも紹介しました*1

 また、昨年には、グアニル酸のうま味増強に関する分子メカニズムも報告されています。

Molecular mechanism of the allosteric enhancement of the umami taste sensation.

Mouritsen OG, Khandelia H.

FEBS J. 2012 Sep;279(17):3112-20.

 

f:id:yashoku:20130716183805p:plain

 

 メカニズムを簡単に説明すると、まず、私たちの舌の上の味蕾には、「うま味受容体」である「グルタミン酸受容体」というものがあります。

 このグルタミン酸受容体にうま味成分のグルタミン酸が結合すると、うま味という知覚を神経に伝える「スイッチ」が“オフ”状態から“オン”状態になり、最終的に脳でうま味を感じます。

 グルタミン酸塩(Glutamate)が結合したグルタミン酸受容体に、さらにグアニル酸(GMP)が結合すると、アロステリック効果という受容体の構造変化によって、シグナルの "オン"の状態が安定化し、さらに長い間保たれることによって、より強いうま味を感じるということがわかってきました。

f:id:yashoku:20130716213546p:plainscienceandfooduclaより)

 このようなグアニル酸のような分子が、うま味の感覚を高める「うま味エンハンサー」としてどのように働いているのかを分子レベルで理解することは、うま味の奥深さの解明に重要ですが、それ以外にも、他の味覚の「増強剤」の開発にも役立つと考えられています。

 特に甘味を増強する分子メカニズムの研究は、肥満対策やダイエットの観点で社会的にもきわめて大切です。

 グアニル酸のようなより多くの「味増強分子」を同定することは、将来的には、調理方法に全く新しい次元をもたらす可能性があります。

 私個人的には、グアニル酸“源”となる椎茸、まぁちょっと苦手なんですけどね。 

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