読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

あなたに“究極に合う”食を提供する「3Dフードプリンタ」のアナザ・インパクト

 3Dプリンタの食品版「3Dフードプリンタ」は、ユニークな形のお菓子が作れるだけではなく、「誰でも、どこでも、食感のある“食事”を自動的に作ることができる」可能性があることを前のブログで書きました*1

 そのため将来、3Dフードプリンタは「究極の調理機器」になるインパクトを持っています。

 研究者は夢をみるのも仕事のうちですので、3Dフードプリンタについてもう少し個人的“妄想”を膨らませてみます。

個人個人に“マッチする”「食」はそれぞれ違う

 私たちひとりひとりの顔が違うように、ヒトの個人の間にはささいな遺伝子の違いがあり、その違いは「遺伝子多型」とよばれています。

 そのほんのわずかな遺伝子多型によって、病気のなりやすさ、アレルギー体質、薬に対する効きやすさなどが変わってきます。

 これは、薬だけでなく食べものも同様で、人によって、食品成分の消化、吸収、代謝、利用などに個人差があることが知られています。たとえば、お酒が飲める飲めないという体質は、遺伝子のたった一個(一塩基)の違いによるものです。

 既製服と違い、個人の体格や好みに合わせて洋服を作るように、個人の体質や遺伝子多型に応じた「テーラーメイド化(オーダーメイド化)」が、今後、医療や栄養指導の分野でますます重要になると考えられています*2*3

 食事指導によって個人のテーラーメイド化が可能な場合もありますが、食事内容が制限・限定される可能性もあるため、個人個人に合った食品である「テーラーメイド食品」ができれば理想的です。

 この「テーラーメイド食品の開発」という分野で、この3Dフードプリンタがブレイクスルーを引き起こす可能性があります。

遺伝子を元に病気を予防する食品が作られる!?

 テーラーメイド食品の開発の可能性について、具体的な例を挙げてみます。

 代表的な肥満関連遺伝子のひとつに「β3アドレナリン受容体」という遺伝子多型が知られています。実に日本人の3人に1人が、この遺伝子の太りやすい(代謝があまり良くない)変異型を持っています。

 そのため、このような肥満遺伝子を持つ方の食事には、3Dフードプリンタを用いて、絶えず脂肪を抑えた「太りにくい料理」を出力するということが考えられます。

 さらに、高血圧の方には「減塩の食事」を、食物アレルギーの方にはその原因となる「アレルゲンを除いた食事」をそれぞれ“プリントアウト”することも有効でしょう。

 また、遺伝子多型や体質とは別に、宗教や信念上、肉などが食べられない方には、代替の食材を使った食事を“テーラーメイド”で作ることも、世界的に見れば将来性のある利用法といえます。

 今後、多くの人の遺伝子多型と疾病予防が明確な食品成分の「ビッグデータ」の研究成果が蓄積されることによって、各人の体質にあった「機能性テーラーメイド食品」の開発が、3Dフードプリンタで実現するのではないかと思います。

 たとえば、見た目は普通の「ピザ」であっても、お父さんが食べるビザには、心臓病のリスクを低減する「“ω-3系脂肪酸”強化ピザ」を、お母さんのピザには老化防止・美容効果のある「“抗酸化物質”強化ピザ」のようなものを、3Dフードプリンタによってそれぞれ提供できるようになるかもしれません。

f:id:yashoku:20130711151412j:plain

「データ」入力 → 「テーラーメイド食品」出力!!

 また、個々人の遺伝子多型以前に、乳幼児期、成長期、成人期、高齢期のような「ライフステージ」によっても摂取すべき栄養は異なります。特に女性の場合は、妊娠・授乳期によっても変わります。

 親・子・孫の3世代同居しているご家庭などでは、各人が求める「食」の質と量が異なるので、食事を準備する方は大変です。

 各ライフステージ向けに、見た目は同じような食事がひとつの食卓に並んでいたとしても、3Dフードプリンタで各人がそれぞれが摂取すべき栄養成分などを変えた「オーダーメイド食・テーラーメイド食」が提供されるようになるかもしれません。

 3Dフードプリンタは、形状や物性もコントロールできるため、歯が弱くなったおじいちゃん・おばあちゃんには、やわらかい食感のお肉などが出力されるようになるでしょう。

 3Dフードプリンタに、個々人の年齢、性別、遺伝情報、病気の有無、運動の有無、その日の体調などの「個人データ」と、自分が食べたいもの(ラーメン、お寿司など)と好み(風味や食感など)の「3Dフードデータ」を打ち込むだけで、それらの栄養面や嗜好面が完璧に反映された「究極のテーラーメイド食品」が生み出される、そんな未来が私の脳裏に浮かんできました。

f:id:yashoku:20130711205836j:plain

 未来人も現代人と同様かそれ以上にせっかちでしょうから、カップラーメンを待つ時間以内で、3Dフードプリンタから食べものが提供されるようになれば理想的です。

 技術的にどこまで実用化される可能性があるのかわかりませんが、私が生きている間にその片鱗は“チラ見”したいものです。

 3Dフードプリンタについて、もっと妄想が膨らんできたのですが、寝れなくなりそうなので、このあたりでやめておきます。

関連記事