夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

舌から脳までの“おいしさ情報”の「伝言ゲーム」

 料理を食べて「おいしいっ!」と感じるプロセスは、食べものの「情報」を脳に伝える「伝言ゲーム」のようなものです。

 例えば、味覚では、食べものの中に含まれる「味分子」が、舌の味蕾にある味細胞の表面にある「味覚受容体」にくっつきます。

 受容体に味分子が結合すると、味細胞がその「シグナル」を神経細胞に伝え、最終的に脳に伝わります。

 具体的には、味分子が、細胞内のさまざまな「情報伝達物質」へと変わり、脳へとたどり着き、「甘い」とか「塩っぱい」という情報として認知されます。

 すなわち、おいしさの情報は、味分子→受容器レベル→神経伝達レベル→脳機能レベル→認知・知覚レベルへと「情報の川」を上流から下流へと流れて行きます。

 味覚だけでなく、食べた時の嗅覚、視覚、聴覚、触覚の情報も脳への伝言ゲームが行われ、様々な感覚がアマゾン川の支流と本流が合流するように統合された結果、「このケーキ、おいしい」とか「カレー、おかわり」と感じるようになります。

 分子生物学の発展により、受容器レベルや神経伝達レベルのメカニズムはだいぶ明らかにされてきましたが、脳機能レベルや認知レベルはまだブラックボックスな部分が多く残されています。

 また、各レベルの連携についても十分な知見がまだ揃っていない状況です。

 「特定の食品にやみつきになるのはなぜか」、「同じ物を食べてもおいしく感じる人とそうでない人がいるのはなぜか」、「年齢を重ねると好きな食べものが変わるのはなぜか」などの疑問に答えるためには、受容器レベルから認知レベルのそれぞれの働きとそれらの相互作用が解明されればきっと明らかになることでしょう。

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