夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

“おいしさ”は料理の中ではなく、脳の中にある

 先日、久しぶりに外で焼肉を食べました。パワーを得たい時は、やはり肉ですね。

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 炭火で肉を焼く際、網の上で焼かれる音、肉の焼き目、立ち上る香り、そして食べた時に肉からほとばしる肉汁の風味やとろける食感によって「おいしさ」を感じます。

 おいしい料理は、人の五感を大きく刺激します。

 料理のおいしさを決める最大要因である「味」の情報は、口の中の味蕾・味細胞・味覚受容体で受容され、味覚神経を経て大脳皮質で最初に味情報が伝達される第一次味覚野に到達します。

 ヒトの第一次味覚野には、G野(area G)と中心溝底部があり、「うま味が十分ある」とか「少し甘味が感じられる」とか「塩味がちょっと足りない」などの味物質やその濃度の違いなども識別されます。

 また、味覚以外の嗅覚、視覚、聴覚、触覚の情報も脳に伝えられ、味覚情報と統合され、トータル的なおいしさとなります。

 さらに、料理の総合的なおいしさは、その人が育った食文化や、個人的な食体験、先入観などの認知的要因の影響を受けるとともに、焼肉を食べるテーブルや誰と一緒に食べているかという環境の要因も受けます。

 このような内的要因と外的要因がからみ合って、「焼肉、うまいなぁ!」となります。

 おいしい料理を作ろうとする際、男性の場合は特に、材料であったり、調理法にこだわったりします。

 しかし、その料理を食べる人が「その料理をどう“感じる”か」について考えることは、料理に使う食材を吟味することと同じくらい大事なことでしょう。

 むしろ、おいしさは、決して料理の中にあるのではなく、食べた人の頭のなかに「おいしい情報」が流れ込んで初めて感じるものです。

 大切な人においしい料理を作りたい時、料理の風味や見た目だけでなく、食べる雰囲気やその人の食習慣までも考慮することで、感動的なおいしさをその人に伝えることができるのでしょう。

 プロフェッショナルの分野では、おいしさの終着点である、脳の働きを考えて料理をする時代が到来しています。