夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

“ノックアウト”されない程度の“ノックダウン”を経験しておこう

 先週“ノックダウン”された風邪から回復し、日々のご飯のおいしさを噛み締めています。

 分子生物学の分野に、遺伝子の「ノックダウン」と「ノックアウト」という実験技術があります。

 ノックダウンは、遺伝子の量(転写量)を減らす技術で、一方、ノックアウトは、遺伝子を破壊して無効化してしまうことです。

 遺伝子の機能を調べる時、遺伝子の働きを“増強”して調べるよりも、遺伝子を潰してしまった方がより結果が明快になります。遺伝子を「足し算」ではなく、「引き算」で調べるという原理です。

 もともと持っている遺伝子は、体の中であたりまえに働いているため通常は認識できません。それと同じように、世の中のあたりまえや自分やその周りの大事なことほど、普段は見えないものです。

 自分の健康、身近な大切な人の存在、社会の便利さなどが、いざ病気になったり、亡くなったり、自然災害に襲われた時になって初めてその重要性が浮上してきます。

 大切がことが完全に失われ、取り返しのつかない“ノックアウト”の状態にならないように、多少不便さを感じる程度の“ノックダウン”を経験しておくことが、普段の生活の中で大事なことのように思えます。

 例えば、軽い病気の経験から自分の健康をまめにチェックしておくことや、災害に備えて限られた食材での料理を経験しておくことや、海外旅行に行って日本の社会の便利さを再発見することなどが、それらがもし失われてしまった際の糧となるでしょう。

  ノックダウンという“ワクチン”を打って、いざというときに打ちのめされない、KOされないメンタル力を養っておきたいものです。

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