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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「食」の20年度、30年後の未来予想

食の未来 分子栄養学 栄養 食と健康 食の科学

 今年もあっという間に「仕事納め」の12月28日。“おさまっていない”仕事が多々ありますが、いちおう「ひと区切り」の日となりました。

 年末年始は、「これまでの1年」そして「これからの1年」を考えるきっかけを与えてくれる時期です。

 2012年。私は、初めて一般向けの書籍を出させていただいたことがきっかけで、多くの新しい出会いに恵まれた年でした。来年、私の年齢は大台にのりますので、迷いなくまた新しいことにチャレンジしていきたいと思います。

 科学者・研究者は、至近距離の数年だけでなく「これからの20年後、30年後の未来」を考えなければならない職業です。

 今月、次のような記事を目にしていました*1

未来予想が当たらない… 科学技術の進歩頭打ち?
2012/12/2 3:30

 20××年、東京湾の人工島に高層ビルがそびえ立ち、その間を自動車や電車が飛び交う。SF小説やアニメ好きでなくても、未来技術に心躍らせる人は多い。ところがここ20年は、専門家の未来予想が当たらなくなったとする分析結果が明らかになった。大ヒット商品の不在からも、科学技術の進歩が鈍くなった印象はあった。ついに未来予想に夢を託せなくなったのか。

 23%(1971年)、17%(77年)、17%(82年)14%(87年)、8%(92年)。文部科学省が1971年からほぼ5年おきにまとめる科学技術の未来予測。文科省科学技術政策研究所がそれぞれ20年後に実現した割合を調べたところ、専門家の予想を裏切る例が年を追うごとに増えていた。

 技術的な側面、社会的な側面などから、専門家にとっても将来を見通すことが難しくなっている現状があるようです。

 この未来予測を行なっている文科省の科学技術政策研究所がまとめた「将来社会を支える科学技術の予測調査」の最新版が、2010年に出されており、Webから自由にダウンロードできます*2

 985ページからなるそのレポートをざっと読んでみましたが、実におもしろい!「超リアルSF」といった感じです。

 「情報」や「医療」関係も大変興味深いのですが、その中から私の専門である「」の未来予想をピックアップしてみます。

社会的実現予測時期 課題
2025年 出荷前の農水畜産物等の成分と物性を感知・分析する精密食味分析ロボット
2025年 将来の罹患の危険性を低減する疾病予防食品
2025年 高齢者に特有の、抗酸化機能・脳機能・咀嚼機能の低下を防ぎ、健康な高齢社会を食から支える食品と食事法
2026年 生活習慣病予防を目的とする、個人のためのテーラーメイド機能性食品
2027年 未利用の深海微生物の生理機能を利用した、食品や医薬品等の生産技術
2027年 流通可能な水産養殖品種を作出するための優良形質導入技術(耐病性、高成長性、脱アレルゲン)
2027年 時期および部位特異遺伝子発現などを利用し、人為的に導入した遺伝子の環境への拡散がない遺伝子組み替え植物

 「食」は「健康」に直結するため、その未来には多くの方が関心を抱くのではないかと思います。

 「食と健康」の未来は、ざっくり言ってしまえば「肥満」と「高齢化」対策に重点が置かれるのは間違いないでしょう。

 現に、先進諸国では、過剰なエネルギー摂取による肥満に起因する生活習慣病が、国家的な問題として取り上げられています。

 また、かつてない高齢者社会を迎えた日本では、その高齢化社会を「食」から支えるための食品と食事法の開発が重要と考える人が多く、「食」による疾病予防を実現するための食品の開発にも期待が寄せられています。

 そして、私が今最も関心を持っているのが、「テーラーメイド食品の開発」です。

 生活習慣病の発症や症状は、 個人差が大きく、生活習慣に加えて個々人の遺伝的資質も影響しています。そこで、個人に適応したテーラーメイドの機能性食品の開発と実現が必要とされています。

 また、最初の日経の記事の最後の文を抜粋します。

 2010年時点の最新予想では、30年代には「様々な細胞に育つiPS細胞を使う再生治療」「化石燃料を使わない航空機」などが実用化しているという。研究では米国との差が縮まらず、家電などでは韓国や中国との価格競争に敗れた。未来に思いをはせる大切さを一番知っているのが日本だ。未来予想の重みが増してくる。

 研究者は、多くの方に期待を抱いてもらえるような未来を語り、それ達成するための研究成果を出すように奮起しなければならないでしょう。さらにいえば、未来予想が良い面で裏切られるような、誰も予想だにしなかったような科学技術を開発できればなお最高です。

 原発事故発生以来、研究者は、夢を熱く語らなければならない職業だと強く感じています。

 社会が夢みる科学技術に対して、単なる「未来予想屋」ではなく、「未来実現屋」の一員になりたいと思います。

 2012年の「夜食日記」のブログは、この記事が最後です。皆さま、どうぞ良いお年をお迎え下さい!