夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

食品業界は今後どのような新商品を開発すればよいか? - 食産業の進化から考える -

 今回参加した国際食品科学技術連合IUFoSTの活動は多岐にわたりますが、そのメインのひとつが、食品研究者と食品技術者の教育でしょう。

 日本の学術学会ではあまり見かけないのですが、このIUFoSTの国際学会World Congressでは、教育関係のプログラムが数多く組まれており、いくつか聞いてきました。

 その中で何度も引用されていたおもしろいグラフがありました。「食品に追加された価値に関する食品産業の進化」というグラフです。

 Aguilera, J. M. J Sci Food Agric 86:1147–1155 (2006)より

 食品業界は、世界中のあらゆる製造業の中で最大の売上高がある巨大産業です。

 19世紀や20世紀前半の食品産業は、高生産、低コスト、保存性の高い食品を生産することがいわば使命でした。そのため、機器の設計、自動化、包装技術などの製造工学(Process Engineering)が発達してきました。

 20世紀後半にかけては、安全で高品質な食品や製品に加えて、消費者の健康増進に貢献する製品が望まれるようになってきました。そのため、コロイド化学や、食品物理、ポリマー科学などの製品工学(Product Engineering)に重要度がシフトしてきました。

 食品業界は、単に製品を「作る Make」というメーカー的立場から → 商品による「サービス Survice」 → さらに機能性食品などによる消費者の健康を「ケア Care」するという価値を提供する立場へと進化してきました。

 さらに、これまでは食品業者は、微生物学的に安全で、栄養価が高くて、低価格な食品をスケールアップして製造し、消費者に提供するのが仕事でしたが、時代とともに、消費者が自分たちが食べたいものを生産者に伝え、それを製造業界が作る努力をすることが求められるようになってきました。

 「農場から食卓へ(from farm to fork)で」はなく、「食卓から農場へ(from fork to farm)」という要求、すなわち「“フードチェーン”の逆流現象」です。

 そのため、食品業界は、新製品を開発する上で、消費者の要求を満たすものを提供する必要性が強く求められています。

 上のグラフでは、線はS時カーブを描いており、製品価値の“上げ止まり”が見られます。「製品価値を今後いかに上昇させるか」について、何人かの方がセッションで話していました。

 私は、「個人個人に体質や遺伝子多型にあったテーラーメイド食品(オーダーメイド食品)」が今後の食品価値に重要になってくると考え、5年前くらいからこの分野の研究を行っているのですが、今回の学会でも個別化食事個別化栄養(Individualized Diet and Nutrition)が重要と考えている人が次第に多くなってきたと感じています。