夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

「女性的食品」と「男性的食品」

 先日の大学院講義「食品開発学特論」で、院生たちとディスカッションしたネタをひとつ。

 いきなりですが、ある人の一日の食事メニューを下に示します。

    • 朝食
      • クリームチーズベーグル 1個
      • オレンジジュース 1杯
      • コーヒー 1杯
    • 昼食
      • ツナとレタスのサンドウィッチ 1個
      • 春雨スープ 1個
      • ヨーグルト 1個
    • 夕食
      • トマトの冷製パスタ 1皿
      • グレープフルーツのサラダ 1皿
      • 小ぶりのパン 1個
    • 間食
      • フルーツタルト 1個
      • 紅茶 1杯
      • 野菜スティック 少量
      • ダイエットコーク 1本

 上のメニューを見て、食べた人の性別は、女性、男性どちらだと思うでしょうか?

 だいたいの人は「女性」を思い浮かべるのではないでしょうか。

 じつは、アラフォー男性である「私」のある日の食事メニューです。

 連夜のお酒で胃腸が“へたっていた”時で、おとなしめの食事となっています。

 食品には、その食品がもっている「イメージ」があります。そのため、食品のイメージが、それを食べる人にも連動してくるステレオタイプがあります。その典型が、性に関係するジェンダー・ステレオタイプとよばれるものです。

 たとえば、一人でラーメン屋さんや牛丼チェーンに入りにくいと感じている女性や、おしゃれなカフェやスイーツの店に入りにくいと感じている男性は少なくないのではないでしょうか。客のほとんどが女性という店や、逆に男性しかいない店というのを私たちはよく目にします。

 そもそも、女性的な食品男性的な食品というものがあるのでしょうか?

 それを実際に調べているおもしろい調査結果があります。

 1997年にアメリカで行われた調査で、たとえば、女性の夕食の典型としてはスパゲティが、男性の夕食の典型としてはサーロインステーキがリストアップされています。アメリカと日本では食文化が違いますが、同意できる結果です。

 日本でも2009年に、同様の調査が行われています。それによると、女性的食品として、パスタ、サラダ、果物、ケーキなどが、男性的食品として、牛丼、とんかつ、ステーキ、ラーメンなどが上位にあがっていました。これも、納得できる結果ですよね。

 前述のアメリカでの調査によると、興味深いことに「女性的なメニューを食べていると描写された人は、その性別に関わらず、男性的なメニューを食べている人よりも女性性が高く評価された」とのことです。

 すなわち、食べている「食べもの」でその人の「女性らしさ、男性らしさ」が判断され、もっといえば「人となり」までが判断されてしまうということです。

 これが、「食は人となり仮説(“you are what you eat" hypothesis)」とよばれるものです。

 私たちは、「食」からその人の性別、パーソナリティ、さらには社会的役割などを推理してしまう生きもののようです。

 逆にいえば、どのような食べものを食べるかで、自分を他人にどのように見せるかという「印象操作(impression management)」の手段として使えるということです。

 消費者の食品選択や食行動は、このような「食のイメージ」と密接に関わっており、食品開発者はその点をよーく認識しておかなければならないことでしょう。

 また、このディスカッションの過程で、もう一つおもしろい切り口が見つかりました。それは、次回にでも。

 つづく。