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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「震災食の講演@増上寺」で思ったこと

食と震災 非常食・保存食

 先日、浄土宗の東京教区寺庭婦人会様からご依頼で、「震災食」に関する講演を行ってきました。場所は、浄土宗大本山の「増上寺」にて。増上寺は、徳川将軍家の菩提寺として有名ですね。

 増上寺の総門を指すという地下鉄「大門」駅から、歩いて向かいました。近くに東京タワーが見えます。

 境内入り口の大きな赤い門は、三解脱門(さんげだつもん)といい、重要文化財に指定されているようです。

 講演した「三縁ホール」は、正面本堂の地下一階でした。日差しの強い日でした。

 講演の対象は、東京都内の浄土宗の各寺院のご婦人方で、約80名ほどの方々に参加していただきました。講演する前には、東日本大震災で亡くなられた方へのお念仏もあげていただきました。

 お話した内容は、上梓した「大震災を生き抜くための食事学」がベースでしたが、30年以内に70%の確率で来るといわれている「首都圏直下型地震」への対応策について、わたしの経験を踏まえたお話をわかりやすくお伝えしました。また、先月、NHK総合テレビの「サキどり」という番組に出演した時のDVDもあわせて紹介させていただきました。

 三縁ホールは、大学の講義室とは異なり、わたしの声が実によく響くホールでした。お仏壇のある横の白い壁にプロジェクターで映したパワーポイントを使ってお話しをさせていただきましたが、なかなかふだん体験できない貴重な経験となりました。

 講演後、たくさんの方々からご質問を頂戴しました。その中の一つを紹介すると、『家や職場ではなく「移動中」に被災した時は、どう対応するべきですか?』というご質問がありました。

 仙台のような地方都市の場合、家と職場の距離は首都圏ほどは遠くなく、また移動手段も自家用車である場合も多いため、備蓄食料は、家と職場の2箇所(理想的には、車などにも)に保管しておけば、ある程度は事足りるのではないかと思っていました。そのため、移動中の備蓄食の対応についてこれまで深く考えたことはありませんでした。

 しかし、首都圏の場合、公共交通機関で移動中や出先で大きな地震に遭遇する可能性も高く、なかなか自宅や職場などに辿りつけない場合が考えられます。実際、東日本大震災の時も「帰宅難民」が大きな社会問題となりました。

 ありきたりの返答しかできませんでしたが、実際に『外出中も「おにぎりや水」などの最低限の食糧を必ず持参しています』というご年配の方もいらっしゃって、地方と首都圏との違いを感じ、私自身大変勉強になりました。

 寺院や神社は、震災時、学校と同様に人が集まるでしょうから、「公共性」が極めて高い場所です。

 災害時、市区町村など役所などよりも、一般の多くの方にとっては、寺社そしてNPOなどが非常時に果たす役割の方が、大きい場合もあるのではないでしょうか。

 震災で悩まされるのは、まず「食」なのは間違いありません。そして、その「食」を支えているのは、なんといっても「女性」です。

 そのため、お寺の奥様方は「震災食」について一番敏感にかつ現実的に考えているグループの一つでしょう。

 今回、講演の講師に呼んでいただき、多くの方がメモを取りながら熱心に私の話を聞いてくださいました。そのお姿やご質問の内容から、「震災時に自分が助かるためにはどうしたらいいのか」ではなく「周りの人を助けるためにはどうしたらいいのか」というスタンスを「寺庭婦人会」の方々から私は強く感じました。

 備蓄食を考えるのは、来てほしくない地震のことを考えなければならないので、なかなか気の進まない作業です。しかし、それでもいずれ来るであろう地震への対策はとらなくてはいけません。

 食を備蓄するための最大のモチベーションは、「自分ではなく、誰か自分以外の人を想うことから湧き上がるのではないか」。

 今回の講演で、強くそう感じたのでした。

 おみやげにいただいた増上寺限定の「三縁クッキー」↑。とてもおいしかったです。