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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

今後、どのような「防災食」が必要か? 宮城大学1年生450名のレポートから見えてくるもの

食と震災 非常食・保存食

 勤務先の宮城大学は、宮城県が設立した公立大学です。学部は、看護学部事業構想学部産業学の3学部があり、それぞれ地域ニーズにマッチした教育が行われています。

 毎年、新入生の1年生には「基礎ゼミ」という大学教育の導入科目があります。基本は、各教員が3、4名の学生に対して行う少人数教育です。

 しかし、今年度の基礎ゼミは、全学部から3名(組)の教員によって、全学部の1年生に「防災とボランティア」という講義が少人数教育の前に行われました。もちろん、東日本大震災を受けての対応です。食産業学部からは私が担当することになり、特に「防災と食」に関する講義を依頼されました。

 その講義が、先月末に終わりました。宮城大学3学部の1年生全員、総勢約450名に対する講義でした。

 どの学部、どの学科も半数以上は、地元宮城県出身の子供たちです。さらに、東北6県出身を含めると、約8、9割に達します。3.11東日本大震災では、東北電力管内のほとんどの地域が停電となりましたから、震災当時の不便さ、大変さを身をもって経験している学生ばかりです。

 震災の経験は、その人の置かれていた状況によって大きく異なり、感じ方もさまざまであることは、これまで多くの方と話をして感じてきました。

 あの大津波を目の前にし、精神的に大きなストレスを受けた学生も大勢いるはずで、決して軽率なことを口走ってはならないという緊張感を持って講義にのぞみました。

 講義の中身は、「大震災を生き抜くための食事学」で書いたような、私の「一人称」の話で進行しました。私の個人的経験談をフィルターにして、学生自身にも、自分なりの視点でこれからの「食」を考えて欲しいという想いがあったからです。

 1年生の皆さんは、学部2年生以上の講義ではまず見られない、ありえないほどの集中力で熱心に聞いてくれました。

 60分くらい私が「防災と食」についての話をした後、残りの30分をミニレポートとして講義を通じ「今後、どのような“防災食”が必要か、“自分の考え”を書きなさい」という課題を出しました。

 特に、自分の体験を思い出して書くような指示はもちろんしませんでしたが(←教員としては言ってはいけないことですので)、自分自身の3.11の体験から、感じたこと、考えたことを踏まえて書いてくれた学生がほとんどでした。

 文章力はこの前まで高校生でしたのでまだまだ未熟でしたが、自分の経験に基づく文には、どんな評論家にも負けないずっしりとした“重た〜い”説得力がありました。

 3学部に同じ課題を出しましたが、事業構想学部と食産業学部は、より具体的な「温かな食べものを準備する」とか「栄養バランスのとれた食事やバリエーション豊かな食事の必要性」などの「対応策」を書いてくれた学生が主流でしたが、看護学部は「災害弱者となる乳幼児や高齢者へ配慮」など「人」について書かれた文章がより多く見受けられました。

 そして、このレポートを読んで私が思ったことの1つは、どの学部の学生も私の想像以上に「食」の大切さをかなりリアルに感じているということでした。

 戦後の食糧難を経験した今の年配の世代は、おそらく「食」に対する危機意識が他の世代よりもずっと高かったことでしょう。宮城大学の1年生たちも、17、18才の年齢で「あの体験」をしたのですから、きっと「食」に対して軽んずるようなことはこれから一生ないのではないでしょうか。将来とても有望な人材だと私は思っています。

 約450名分のミニレポートを週末に全部じっくりと読みましたが、被災地に住んでいた子たちの経験から湧き出た「声」は実に貴重でした。文字通り「貴く、重い」ものです。読むだけで、かなりのエネルギーを要しました。

 今、「防災食」に関して私が行なっていることは、保存食としての「“ガラス化卵”の開発」だけですが、いずれ彼ら、彼女らとともに、何からの形で防災や減災に関することができたらと思っています。