夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

食と放射性物質の問題 〜科学者のスタンスとは〜

 福島原発事故によって、「信頼」が大きく低下したのは、東電、そして原発の御用学者たちでしょう。3.11後、私も科学者の一人として、原発事故や放射性物質に対して、社会における「科学者のスタンス」を再認識しています。

 一般の方が、原発問題で今一番気になっているのはやはり、私たちの体の中に入ってくる、食品中の放射性物質による内部被曝の問題ではないでしょうか。

 科学者が「信頼」されるためには、価値観や自分の利益に惑わされないで、「真実」を語り続けなければなりません。

 たとえば私の場合、私のふるさと福島の農産物の安全は、私の故郷への想いとは全く切り離し、「放射性物質の含量が、基準値に対して高いか低いか」で判断するのが科学者としてあたりまえのことであり、そこに自分の信念や価値観が入る隙はないということです。

 もちろん、「その基準値がなぜその数字なのか」を科学的に説明できることが大前提にあります。そのため、4月から暫定基準値が基準値となりますが、基準値がこのように途中で変わるとかなり恣意的な印象を持たれます。役所は、科学的にそしてかなり親切丁寧に新基準値に対して国民に説明することが求められるでしょう。

 「日本の科学者」という日本科学者会議(JSA)という団体が発行している月刊誌があります。私は定期購読しているのですが、今月号のある記事内のある文章を「忘備録」として転記します。

  1. 原発かどうかは価値観の問題である.一方,低線量放射線がどの位危険かは科学の問題である.価値観で科学的結論を歪める人がいたとしたら,それは科学者ではない、と私は信ずる.
  2. 科学的主張は証拠,根拠に基づくべきである.証拠・根拠は,実験,観測,調査,文献に基づく.信仰,価値観で判断するのは宗教であって科学ではない.科学者の任務を自覚すべきだ.
  3. 古い知識に頼って分かったように発言してはいけない.科学者が怠けているのは罪なのだ.謙虚に勉強するのは,科学者の最低限のマナーだ.
  4. ストレスは,免疫力の低下に繋がり,発がんのリスクを増大させることは,昨今の研究が示している.科学者が放射線の危険性を過大に煽るのは,市民の健康を害する行為であると思う.
  5. 福島の人たちは風評被害を通じて,根拠のない偏見に苦しんでいる.科学者が偏見を煽るようなことはしないように願う.

(【討論のひろば 原発を考える】分野を越えた21世紀型学問の構築 坂東昌子 より)

日本の科学者 Vol.47 No.3 pp.48 2012