夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

おばあ曰く「戦争の時よりひどい」

 この前の日曜日、福島の実家に3.11以降初の帰省をしました。

 母と祖母、近くに住む姉夫婦も来ていて、いつものように「のり巻き」と「いなり寿司」で迎えてくれました。

 中通りなので津波の影響はなく、家の損壊も多少壁が崩れヒビが入ったようですが、建物的には全く問題はないようでした。しかし、やはり原発事故で家族は精神的にだいぶやられているようでした。

 家に入る前に、玄関横の壁にある新聞入れのポストがガムテープでびっしりと塞がれているのに「あれ?」と思いましたが、それは放射性物質の侵入を防ぐためのものだと後から気が付かされました。

 実家は福島原発から60キロぐらいの距離にありますが、外出は極力控えるようにいわれているようで、家族はずっと一日家にいる毎日のようです。しかたなく母親は家でテレビばかり見ているようですが、テレビでは原発ニュースばかり目にするので、「頭が痛くなる」と言っていました。

 80才を過ぎた「おばあ」は、これまで家で食べるぶんの野菜をずっと作っていました。私の家にもよく送ってくれました。昔から働きもので、家でじっとしていることができない性分のため、いつも朝早くから近くの畑へと出かけていくのが日課のような人です。それが、今野菜に触れるどころが、全く外に出ていないようです。

 おばあは実に多趣味な人で、野菜も色々珍しい種類の野菜の種をまいてチャレンジするのが好きですし、今でもゲートボールやグランドゴルフの練習にパイクで欠かさず行くような人です。小さい頃、私はおばあと一緒にジョギングしていました。

 私の生き物好き、スポーツ好きの原点はこのおばあの影響です。

 そのおばあが、次のようなことを言っていました。

 「戦争の時のほうがまだよがった。供出といって米は(国に)出したけど、芋や野菜は自分で作って食べれた。今はそれすらもできねぇし、こんな天気のいい日なのに外にも出れねぇなんて…」

 家庭菜園などをしている方はわかると思いますが、野菜をつくるのは、自分で育てた野菜を食べることができてうれしいということもありますが、それ以上に、野菜を育てて収穫するという行為そのものがうれしいものです。

 津波の被害をうけた方や原発事故で避難された方々の気持ちを考えると、自分の心臓が握りつぶされるくらい苦しいですが、まだ“マシ”な私の実家でさえ、人の生きがいを奪い、うちのおばあ曰く「戦争の時よりひどい」のが今の福島の現状です。

 できる限りの言葉は掛けてきたつもりですが、家族の表情は終始暗いままでした。

 おばあは、今、義兄が買ってきてくれるジグソーパズルをひたすら組み立てているようです。ここ数週間の間に、大きな500ピースのパズルを2つ、1000ピースのパズルを1つ完成させてしまいました。景色がバックでピースの区別がしにくい、私でも組み立てるのに相当苦労しそうなパズルをです。

 もう一つ、おばあが言ったことで私の胸に突き刺さる言葉がありました。それはまた次のブログで。