夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

食の安全を「グラデーション信号機」で考えよう

 今日、野菜などから検出される放射性物質の上限を定めた食品衛生法に基づく「暫定規制値」を、厚生労働省は、問題ないと判断しました。

 自治体からの規制値緩和の要望や、それとは反対の消費者団体の意見などもありましたので、このようなニュースを見ると、「有害成分の規制値って簡単に変えていいの」「そもそも規制値や基準値ってどのように決めているの」と思う方もいるでしょう。

 その辺を、ちょっと考えてみます。

どうやって基準値を決めているのか

 食品添加物の安全性試験の例で説明します。

 食品添加物の安全性評価は、人では毒性試験などはもちろんできないので、マウスやラットなどの実験動物を用います。

 まず、食品添加物の実験動物に毒性の影響を与えなかった最大の量(最大無毒性量)を求めます。次に、この最大無毒性量に安全係数1/100をかけて、人が一日にその量以下ならば食べても有害ではない量の一日摂取許容量を求めます。

 一日摂取許容量をもとに、使用できる食品と使用できる量を決めた使用基準を設定します。

 図解するとこうなります。

 なぜ、最大無毒性量に安全係数1/100をかけるかというと、人と実験動物の感受性の差が10倍を超えることはないという経験則をもとに、人へ当てはめるときは動物実験から得られた無毒性量を1/10にし、 さらに同じ人間同士でも感受性の差が10倍を超えることはないという経験則をもとに、さらに1/10にして、全体で安全係数を1/100にしています。

 ですので、実際の食品添加物の規制値は、かなり毒性を発揮しないような低い値に設定されているので、短期的に少しくらい基準値を超える量を摂取しても直ちに体に害を及ぼすものではありません。

食の安全性は「赤と青」ではなく「赤と青のグラデーション」で判断

 手っ取り早く「誰か食品の安全性の白黒をつけてほしい」と思う方が多いのではないでしょうか。

 歩行者用の信号で例えるならば、「渡れる(食べられる))“青”」なのか、「渡れない(食べられない)“赤”」なのかはっきりしてくれと。

 しかし、食の安全は、赤青の信号ではなく、「赤と青のグラデーションの信号」だと思った方がいいでしょう。上端の一番赤い所が最大無毒性量、下端の一番青い所が一日摂取許容量として考えてみます。

 グラデーション信号で考えれば、一日摂取許容量(下端)以下はずっと青なので、全く安全であり、それ以下の食品添加物量を比較しても意味がないことがわかるでしょう。また、一日摂取許容量(規制値)の数倍の値であっても、早急に毒性を示すほどではない“色”だということも視覚的に感じるのではないでしょうか。

 放射性物質であれ、食品添加物であれ、残留農薬であれ、規制値を越せばすぐに“真っ赤”になるわけではなく、ゆっくりと青から赤にじわじわと変わっていくものです。赤になってもすぐに100%毒性を示す値でもありません。それぐらい余裕をもって規制値は設定されています。

 ですから、きちんと分析をし、規制値以下の食品であれば(今、日本の流通に乗っていれば)、全く健康上問題なく食べられると考えるのがサイエンスです。

 あまりあわてずに、冷静になって「食の安全の道」を渡って頂きたいと思います。