夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「炭水化物よりタンパク質、食料より食事、満腹より満足」へ

 新年度になり、知り合いのWebデザイナーさんに、ブログのタイトル画像を作製して頂きました。だいぶかわいい感じですが、気に入っています。ありがとうございました。

 ところで、予兆はあったのですが、口内炎ができてしまいました。震災後、口腔内の衛生管理と食事の栄養バランスには十二分に気をつけてきたつもりですが、最近ちょっと油断した感が否めません。

 震災後2週間までの食生活として、米、パスタ、そうめんなど炭水化物は、わが家には十分ストックがありましたが、野菜・果物などの青果類、鮮魚、精肉、卵などの生鮮食料品は、家にも街にも圧倒的に不足していました。栄養学的にみると、タンパク質、脂質、ビタミン・ミネラル、食物繊維などの欠乏です。

 米やパンなどの炭水化物食品にも、タンパク質は含まれています。ただ、量も少なくタンパク質の構成成分であるアミノ酸バランスが良くないので、他の食品から補わなければなりませんでした。アミノ酸バランスが完ぺきな動物性の食品は、震災後しばらくの間全く手に入れることができず、普段から常食していたツナ缶ですら、私はほとんどの店で見かけることすらできませんでした。

 ごはん(米)には人が必要なアミノ酸のうち、リジンなどが欠乏していますが、大豆製品にはリジンが多く含まれているので、米と大豆食品を一緒に食べると、体に必要な必須アミノ酸は欠乏しにくくなります。動物性食品が摂れない時期は、意識してみそなどの大豆製品を食べていました。これは、昔ながらの日本人の知恵です。

 野菜・果物類が入手できない間は、ビタミン剤を利用していました。これまで、ビタミン剤に頼ると普段の食生活がおろそかになるので、アンチビタミン剤派だったのですが、震災後の非常時には致し方ありません。食物繊維の摂取には、プルーンが大いに役立ちましたね。

 今、在宅避難されている方には食料が届きにくいという問題がありますが、避難所では食料品の量自体はだいぶ充足してきたようです。しかし、タンパク質源の肉・魚・卵や野菜・海藻などはまだまだ不足しています*1。生鮮食料品が入って来なかったら、いわば当然でしょう。

 震災後の食事や食料事情が厳しい国での食事は、食事の中身よりもまずは量で空腹を満たすことが最優先です。その場合、おにぎり、パンなどの炭水化物は、安く、準備しやすく、保存しやすく、運びやすく、食べやすい等々の理由で「お腹への物資第一弾」には大いに役立つ食べ物です。

 しかし、カップ麺やパックごはんなどの炭水化物に偏った食事はあくまで非常時の食事であって、タンパク質や脂質、さらにはビタミン、ミネラル、食物繊維などの「栄養バランスを考えた食料支援」を次のステップとして考えなければならないでしょう。

 実際に被災者の栄養バランスを心配する声が広がっており、物資が行き渡らない避難所では炭水化物などの摂取で栄養が偏りがちとなり、ビタミン不足で口内炎ができる人も多いようです*2。年配の方や小さな子供たちは、免疫力が落ちて風邪をひき、感染症になる可能性があるため、栄養に配慮した食料支援が強く求められています。

 今、芸能人の方々が、大規模な炊き出しを行っています。大変ありがたいことです。炊き出しの定番は、カレーや豚汁だと思いますが、できれば栄養バランスを考えた「具だくさん」にして頂きたいと栄養学的には思います。

 今、避難されている方々は、提供していただいた食料品に心から感謝しているかと思いますが、避難所の食はあくまで非常時の食です。これまで食べていた家庭の料理の味、すなわち普段の食卓での食事が懐かしくなっているのではないかと思います。

 これからは、いかに震災前に送っていた食生活にいかに近づけていくか、「単なる食料支援よりも食生活を含めた食事支援」という時期に来ていると思います。

 自分で食材を買えるのであれば買い、自分で料理できるのであれば料理し、家族で食卓を囲むことができれば囲みたいと願う方がほとんどでしょう。

 極端な食料不足を脱した現時点では、食の支援は「とにかく食料を」という“満腹”を目指したものから、「食卓の復旧」という被災者のメンタル面を含む“満足度の向上”を目指した、“量”から“質”への問題に変わりつつあるように私の目には映ります。

 家を奪われてしまった被災者の方には、一刻も早い仮設住宅の提供が望まれます。

 最後に。「仙台の刑務所では、受刑者は栄養バランスに気を遣った3食付くが、看守は食事もままならない」というニュース*3を見て、複雑な心境になりました。

 皆様、栄養の偏りによる口内炎などにはくれぐれもお気をつけください。

*1:[http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110402-OYT1T00537.htm:title=たんぱく質・野菜・海藻…避難所で不足の食料 : 社会] : YOMIURI ONLINE(読売新聞

*2:[http://sankei.jp.msn.com/life/news/110331/trd11033107350007-n1.htm:title=【東日本大震災】食料支援 栄養の偏りに配慮] - MSN産経ニュース

*3:NEWSポストセブン|[http://www.news-postseven.com/archives/20110402_16222.html:title=仙台の刑務所 受刑者は3食付くが看守は食事もままならない]