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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「甘いものでほっとする」の科学

 今日のasahi.comのニュースから*1

甘いものでほっとして 被災地に焼き菓子177箱送る

 東日本大震災の被災者らに「甘いものでほっとして欲しい」と、神戸や大阪、京都、北海道などの菓子店16店が28日、クッキーやマドレーヌなど日持ちする焼き菓子計177箱を宮城県石巻市に送った。菓子は兵庫県に託し、支援物資とともにトラックで被災地に向かったという。

 呼びかけたのは、関西の菓子店や催しを紹介するホームページ「関西スイーツ」を運営する「CUADRO(クアドロ)」の三坂美代子さん。震災直後、複数の菓子店から「お菓子を送りたい」という声が相次ぎ、まとめ役を引き受けた。焼き菓子は総額約180万円になるといい、1店で75箱を用意した菓子店もあったという。

 三坂さんは「阪神大震災では、震災後に初めて甘いお菓子を口にした被災者から『ほっとした』という声を聞いた。甘いものには心も体も安らげる力がある」という。

 実際に震災をご経験された方々は、さすが被災者の気持ちをよくご存知だと思いました。

 まだまだ、原発事故が終息していない福島県や物資の届きにくい避難所などでは、食べ物の質、量ともに十分ではないところがたくさんあると思います。しかし、私が住む仙台では、地域よってばらつきはあるでしょうが、近くのスーパーマーケットではだいぶ食料品の品揃えが震災前の状態に戻ってきました。

 今、仙台では、ミスタードーナツに長い行列ができる光景が日常となっています。また、ケーキ屋やたい焼き屋にも長い行列ができているのを見かけました。甘いお菓子でほっとしたいという空気が街にあふれています。

 「甘いものが心も体も安らげる力」について、栄養学的に考えてみたいと思います。

 スイーツの甘さの“もと”は、砂糖、化学的には「ショ糖」と呼ばれるものです。ショ糖は、ブドウ糖1分子と果糖1分子が“手をつないだ”状態の二糖類です。ブドウ糖と果糖がつないでいる手は、簡単に切ることができます。

 ショ糖からできるブドウ糖は、タンパク質や脂質と同じように、血液にのって体の至る所に届き、体を維持し動かすエネルギーとなります。しかし、脳には血液・脳関門といわれる厳しい「検問所」があり、エネルギー源としてはブドウ糖以外のものを通しません。

 つまり、米やパンのようなデンプン系の食品と比較して、すぐにブドウ糖ができる甘いものは、脳の働きを活性化するのに適しているというとことがいえます。

 また、脳の神経伝達物質であるセロトニンには気持ちを落ち着かせ、心をリラックスさせる働きがありますが、このセロトニンは、タンパク質に含まれるトリプトファンというアミノ酸から作られます。

 ブドウ糖は、このトリプトファンを脳に優先的に運ぶのに、重要な働きをしています。

 震災直後の極端な物不足による体のエネルギー欠乏状態を脱し、ずっと緊張状態だった脳に栄養を送ることで、頭も休めたいという時期に入っているように私には思われます。体の栄養は足りてきたので、頭を冷静にさせる栄養が欲しいということなのでしょう。

 すなわち、仙台市民は今「体のリラックスだけではなく、頭(すなわち心)をリラックスさせたい」と無意識に思い、それが甘いものへの欲求の高まりにつながっているように私には感じられます。

 3.11からはや半月以上経ちました。頭も体もだいぶ疲れている方が多いのではないかと思います。今こそ、甘いお菓子と温かいお茶やコーヒーでほっと一息入れましょう。

*1:asahi.com(朝日新聞社):[http://www.asahi.com/national/update/0328/OSK201103280109.html:title=甘いものでほっとして 被災地に焼き菓子177箱送る - 社会]