夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

ふるさと福島の“汚された”土、水、空気そして心

私は「せんせー、クールですね」と学生から言われることがよくあります。表情の変化に乏しいからでしょう。

私は、楽観主義なので、基本物事に動じず、感情の振れ幅が非常に小さな人間だと自分では思っていました。

それが今、心が振れに振れ、かき乱され、自分でも収集がつかない状態です。福島原発の事故による放射能汚染のためです。

福島県中通りの実家は、小さな農家です。還暦を過ぎた母が、地域の人と共同で米を作り、祖母が自宅周辺で自分たちが食べる分の野菜を作って暮らしています。

私の父は、私が1歳になる前に事故で死にました。

父親の分も補って余りあるほど働き続けてきた母親、体が丈夫で、野菜や花作りが名人の祖母、男まさりのしっかりした姉のいる家庭で私は育ち、自分の家で採れたものを食べてきました。

仙台の私の家にも、実家の米や野菜を送ってくれていました。

それが今、実家付近の野菜や飲料水からは、基準値を超える放射性物質が測定されました。そして、そこに今も実家の家族は住んでいます。

農家の人間にとって、生まれ育ち、自然の恵みを与えてくれる“土地”というものは、もはやその人の体の一部です。

ですから、「自分の土地が汚された」ということは、「自分そのものが汚された」と同意語です。

放射能汚染された土地を離れればいいと簡単に考える人がいるかもしれませんが、土着の方にとって故郷を離れるということは、自分の財産だけでなく、これまで培ってきた自分の存在価値を捨て去ることに匹敵するものです。

日本人はこれまで多くの地震や津波による災害を乗り越えてきました。しかし、日本人がこれまで経験したこともないこのような未曾有の原子力災害に、私たちはどのように対処していけばよいのでしょう。

今、退避勧告が出ている原発付近の住民の方は、地元を復興しようと思っても、その土地に入ることすらできないのです。今後、何十年も戻ることができない可能性もあります。

あまりにつらいことが起きたとき、人は現実を逃避し、自分の心の平静を保つといいます。

今、この原発事故のことを考えないようにしようとしても、私の家族は、食品から基準値の放射線量を超えたその場所にいます。そのことを考えないようにすることなどできるでしょうか。

研究者である以上、理性的にものを考えようと思っても、今、自分の感情に振り回されて、冷静に考えられない自分がいます。感情が暴走し、理性で抑えつけられません。

私の楽観主義は、瓦解しました。

誰か、汚されてしまったふるさと福島の、土、水、空気、そして地元の方の心を、事故前の元の状態に戻して下さい。