夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

料理を分子レベルで調べたい理由 −料理は化学実験−

 私の出身学部は、農学部です。その男女構成は、同じ理系の工学部ほどではなかったですが、7:3ぐらいで男子学生の方が多かった気がします。

 自分の大学時代、そして自分が理系の学部の大学教員になってから、お菓子作りが趣味の理系男子学生に結構な数遭遇しています。お菓子を自分で作って食べる「”真の”スイーツ男子」です。

 大学時代、ペパーミントのような清潔感が漂っていた同級生のある男子学生は、イベントや打ち上げの時などに、よく自家製のチーズケーキやミルフィーユなどを持ってきてくれました。これが、そのへんの市販のケーキなんか目じゃないほどおいしかったので、女子学生から絶大な人気を集めていました。

 「〇〇君のケーキって、本当においしいよね」、「今度、ケーキをホールごと食べたい!」などと女子学生から言われると、彼は実に爽やな笑顔を返すのでした。

 私は無意識に嫉妬が入りながら、その彼に「お菓子作りの何がおもしろいの?」と聞きたことがあります。

 その答えが次のようなものでした。

 「んー、あれだよ、化学の実験と一緒だよ。AとBを反応させると全く別のCになる。化学反応が自分の手の中で起こっているのを見るのって、おもしろくない?」

 「そうだな。自炊しているから、その気持ちはまぁよくわかるよ」

 「ケーキを食べるよりも作る方が楽しくって、いつも自分で食べきれないくらい作ってしまうんだよ。今度また食べてくれない?」

 「ああ、いいよ…」

 なぜか”完敗”の文字が頭に浮かびました。そして「お菓子作りや料理は、まさに化学実験だ」ということを強く感じた瞬間でもありました。

 その後、彼は大学3年生になって所属研究室を選ぶとき、”有機化学合成”をやっている部屋へと進みました。

 (つづく)