夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

”まっとうさ”の時代

 食品の研究していますので、食品企業の工場見学は一般の方よりはたくさんしていると思います。しかし、「こんな工場見学ははじめて」という体験をしました。

 私の所属大学、所属学科の2年生を対象に、学外の食品工場等を見学する「施設見学会」というものがあります。例年、いろいろな場所に行きますが、今年は山形県高畠町(たかはたまち)にある「株式会社 セゾンファクトリー」さんに見学に行きました。学科の希望者30名ほどの引率でした。

 セゾンファクトリーさんは、百貨店を中心にジャムやドレッシングなどを販売している会社です。仙台からバスで向かいましたが、本社工場は、田舎出身の私から見ても、山道を登った山奥にあります。

 施設に到着し、見学して、施設を出るまで、驚くべきことは、一瞬たりとも不快になるような事態がなかったことです。たった一瞬もです。たいてい食品工場に行くと、気になるようなことの一つや二つは出てくるものですが、全く無かったのはこれが初めてです。

 事務所や工場内で多くの従業員の方に対応していただきましたが、会う方会う方、挨拶や対応が素晴らしく、学生だけでなく私も圧倒されました。「熟成されたホスピタリティ」を感じました。

 施設に到着後に、齋藤峰彰社長自ら会社の成り立ちなどもお話して頂きました。短時間で、会社を創設した経緯、その企業理念などをビシッと伝える技術はさすが社長です。

 食品企業では、衛生管理が徹底しているため、通常、工場内まではなかなか入れないものです。今回、特別に帽子、マスク、白衣、長靴をご用意していただき、手洗い等を十分にした後、実際にドレッシングやジャムを作っているラインのそばまで見学させていただきました。

 大学でも食品加工の実習科目や施設がありますが、実際の現場での見学は、学生にとってまた特別な体験になったことでしょう。

 さらに、工場見学後、販売されている製品の試食と質問時間を取っていただきました。試食品の説明や質問には齋藤雅一副社長に対応していただきました。

 「おいしい水があるこの土地に会社を構えた」「山形の厳しい寒暖の差がおいしい食べ物を作る」「旬のおいしさにこだわる」などの言葉がありましたが、私がグッときた言葉は、「手作りにこだわるが、機械化できるところは機械化する」「おいしいものであれば、国内産だけでなく外国産も使う」というところです。

 一般的に消費者は、大量生産品であっても、食品には「ハンドメイド」を期待します。私の推測ですが、セゾンファクトリーさんが手作りにこだわるのは、消費者の「手作り信仰」に引っ張られているのではなく、ただ単に手作りのほうがおいしいからでしょう。

 セゾンファクトリーさんの手作りのこだわりは、すべての工程を手作するのではなく、手作りでおいしくなるところ、例えば、ドレッシングに使うタマネギを”人が”みじん切りするところにこだわっています。人がみじん切りにした方がおいしくなるというのがその理由です。

 タマネギの場合、機械でカットすると均一になり食感として面白みがなくなるのと、高速でカットすると、空気に触れて活性化する酵素が十分に働かなくなるなどの理由で、おいしくないのかもしれません。

 また、近年、無添加や無農薬、国内産などを”売り”にする商品もありますが、旬のおいしものであれば、外国産も積極的に使うというセゾンファクトリーさんの姿勢は至極まっとうに感じます。実際、ブルーベリージャムのブルベリーは、カナダのケベック州産のものを使っているとのことでした。

 「当たり前のことを当たり前にやる」ということを従業員の方がおっしゃていましたが、その真面目な姿勢は如実に製品に表れています。試食したどの製品も”まっとうな”おいしさを感じました。

 ものも情報も溢れている現代で、いま本当に求められているは、このような「まっとうな製品」なのかもしれません。製品カタログを見ても、世の中のブームやファッションに流されている気配は感じられませんでした。

 最後に全員にジャムとドレッシングのおみやげを頂き、さらに、従業員総出でお見送りまでしていただきました。

 「まっとうな製品」は、きちんとした「まっとうな人」から生まれるということをリアルに感じ、心暖かな気持ちで帰ってきました。

 セゾンファクトリーの皆様に深く感謝申し上げます。