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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「食のプロ」になるのが難しい理由 その2

食のブラックボックス化

 前回述べた「食べ物の”流れ”」

 生産 → 製造・加工 → 保蔵・流通 → 調理 → 摂食 → 消化 → 吸収 → 代謝

ですが、普段私たちが目にする部分は、せいぜい真ん中の「流通 → 調理 → 摂食」であり、その前後は見えないブラックボックス状態です。

 最近の「食品工場見学」が人気なのは、その前の「製造・加工」のブラックボックス内を見たいという表れでしょうし、「農業ブーム」も食のスタートである「生産」現場を体験したいという意識の高まりにほかならないでしょう。

食は台所でできるんじゃない、現場でできるんだ!

 しかし、食の生産現場をリアルに体験するというのは、実に”しんどい”ものです。米の生産は、田植えから稲刈りまで何ヶ月もかかりますし、牛が最初の牛乳を出すまでには生まれてから最低2年は要します。

 「田植えと稲刈りだけやる」とか「牛の乳しぼり体験をする」では、生産現場の表層の薄いことろだけしかなぞることができません。

 おいしい米を作るには水や土などの環境を知り、おいしいミルクを搾るには牛の体調や食べるエサのことを知らなければなりません。

 食のスタート地点を体系的に学ぶことが、食が何かを知るためには大切なことですが、実に面倒で厄介な部分です。私の実家が農家、母親の生家が酪農を営む家なので身に染みてわかります。

 食が生まれる現場体験を積むことの大変さが、「食のプロ」になるのが難しい最大の理由です。 

専門化=タコツボ化?

 また、食に幅広く興味を持ち、進んで色々な行動に移すのは、専門家と呼ばれる人たちよりも一般の方が多いのではないでしょうか。

 どの分野もそうでしょうが、専門家は、より強い専門性を持てば持つほどそこから出てこない習性があります。その点も食の全体を見渡せる「食のプロ」が少ない理由でしょう。

ゆらぐ栄養学

 もうひとつのブラックボックス状態である「消化 → 吸収 → 代謝」ですが、20世紀以降の栄養学の進歩は目覚しいものがあります。

 しかし、最近次のようなニュースもありました*1

 コレステロール「高めが長生き」…日本脂質栄養学会

 コレステロール値は高い方が長生きで良いとする指針を、医師や栄養学者らで作る日本脂質栄養学会がまとめた。

 3日から愛知県で開かれる同学会で発表する。高コレステロールは心臓病や脳卒中の危険要因であり下げるべきだとする現在の医療は「不適切」としており、論議を呼びそうだ。

(以下略)

(2010年9月3日 読売新聞)

 コレステロール栄養には、昔から紆余曲折があって、コレステロールの高い食品を摂っても血清コレステロール値が上昇しやすい人(hyper-responder)と上昇しにくい人(hypo-responder)がいることもわかっています。

 脂質栄養は難しく、以前体にいいと推奨されていたリノール酸が、炎症を引き起こし、生活習慣病を引き起こす危険因子であると示されたこともあります。

 食品の機能は、まだまだ分かっていないことが多く、新しい知識を絶えずアップデートするという意識がとても大切です。

まとめ

 真の意味で食のプロになるのに必要なこと。

    • 食べ物の生産から代謝までの流れを俯瞰的に知る
    • ブラックボックス化している生産過程を実体験する
    • 新しい知識導入を絶やさない

 すべて、私自身に向けたメッセージです。

*1:[http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=30247:title=コレステロール「高めが長生き」…日本脂質栄養学会] : 医療ニュース : yomiDr.