夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「食のプロ」になるのが難しい理由 その1

まず「食べ物の流れ」を考えよう

 私の研究の専門は、分子レベルでの食品学と栄養学です。しかし、「食のプロフェッショナルですか?」と聞かれれば、決して「はい」とは答えられません。

 その理由は、下に示した「食べ物が生産され、食べて栄養になるまでの”流れ”」を考えるとわかります。

 生産 → 製造・加工 → 保蔵・流通 → 調理 → 摂食 → 消化 → 吸収 → 代謝

 上の各部門に、プロと呼ばれる人たちがいます。例えば、食糧生産のプロとして農家や酪農家がおり、調理のプロとして調理師がいます。しかし、食の流れ全体を広く知っているという人(リアルな意味での”食のプロ”)は、そうそういません。

SpecialistとGeneralist

 生産・加工に詳しくても栄養学的素養のない人や、食品の健康増進作用について詳しくても食糧生産の現場を知らない人が多いです。

 つまり、「食のスペシャリストはいるが、食のゼネラリストがいない」のです。

 日本社会では、一つのことを突き詰める「職人気質」が尊重されてきましたが、ビジネスの分野では、何か専門分野を身につけたスペシャリストになるよりも、まずどんな仕事もオールラウンドにバランスよくこなせる能力が求められています。

 「専門馬鹿、専門取ったらただの馬鹿」という言葉がありますが、現代の日本では、専門馬鹿を許すほどの社会的余裕がなくなってしまいました。

食全体を見る大切さ

 食のある分野を専門的に深く掘り下げるのが「縦糸」だとすると、食全体を見たときにそれをまとめる「横糸」がないと、「食全体を見通せる地図」を織り上げることはできません。

 現在、食の問題は、科学的に解決できることはむしろ限られており、社会学的な知識・経験が不可欠となっています。「食の安全安心」の問題などは、まさに食全体を俯瞰しないと解決できない課題です。

 そのため、食のオールラウンダーとしての「食のゼネラリスト」が脚光を浴びる時代になっています。

 私が勤務する宮城大学産業学部は、そんな「食のゼネラリスト」を養成する全国的にも稀な高等教育機関です。