夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

縄文式食生活のススメ

 「十六穀米」のような、雑穀を混ぜたごはんを外食時にだいぶ見かけるようになりました。世の健康志向、ダイエット志向の高まりを感じます。

 客観的にみると、玄米を精白しておいしくした精白米に、あえて混ぜ物をして、”まずくして”食べているわけです。何かエネルギーの無駄のように感じてしまいます。雑穀は食物繊維などの栄養価が高いですが、精米するときに出る「ぬか」には食物繊維もビタミン、ミネラル等が多く含まれていますので、玄米をそのままおいしく食べられる技術が出てくればいいのにと思います。

 人類の進化のなかで、約1万年前に開始された狩猟採取から農耕生活への移行は、米や麦といった炭水化物の主食の生産が可能となりました。それらの農産物を蓄えることによって、食べ物が十分に確保できない冬の時期の飢えから開放され、定住することも可能になりました。

 農耕による食糧生産の開始は、栄養状態の改善をもたらしたと予想しがちですが、実は栄養失調が増加したことが骨格資料の病理分析から明からとなっています。

 すなわち、山や海で狩猟採取生活していた時は、摂取する総カロリーを上げる必要性から、さまざまな動植物を食べる必要があり、その結果、ビタミンやミネラルなどの栄養バランスが比較的とれていました。しかし、農耕による穀類中心の食生活になると、炭水化物だけでお腹は満たされるので、多様な食料を食べる必要がなくなり、栄養の偏りが生じてしまったわけです。

 実際、江戸時代の江戸の多くの町民を苦しめた「江戸患い」は、精米技術の向上によって玄米に含まれていた脚気を予防する成分のビタミンB1の摂取量が著しく減ったために起こりました。当時、脚気が国民病ともいわれていたことから、いかに米ばかりを食べ、他の副食を食べていなかったのがわかります。相当な「偏食」時代だったわけです。

 現在の日本人女性の平均寿命は86歳と、25年連続世界一ですが、その最大の要因は、戦前までのごはん一辺倒の食生活から、西洋型の食生活が入り、適度な動物性食品を摂取することによって、糖質、タンパク質、脂質などの栄養バランスが良くなったためです。

 現代の食生活に求められているのは、炭水化物ばっかり食いの「弥生式食生活」ではなく、いろいろな食物から各栄養素をまんべんなく摂取する「縄文式食生活」なのかもしれません。ジャンクフードは、まさに偏った弥生式でしょう。

 小田静夫さんの『日本人の源流』という本を読むと、実際、縄文時代は私たちが思っている以上に豊かな食生活をしていたことがわかります。また、縄文時代の食事の再現メニューとして調理された「縄文クッキー*1などは、アク抜きされたドングリなどにイノシシなどの獣肉、卵などをこね合わせて焼き上げたもので、おいしいかどうかはまぁ別として、栄養バランスは確実に優れているでしょう。「縄文時代のカ◯リーメイト」ですね。

 縄文時代の食生活は、私たちが普段食べている現代の食事よりもはるかに長寿の食事のような気がします。縄文時代に、今の調理技術、食品衛生管理技術、そして医療技術があったら、ひょっとしたら縄文人の寿命が150才ぐらいになっていたかもしれません。

 冒頭のごはんの雑穀化ですが、現代の食は、縄文時代の食事へと戻っている(退化それとも進化?)一つの例に感じます。”ふすま”入りパンや、藻塩なども同じ流れですね。

 今後ますます進むであろう食の健康志向ブームの中心が、「食の縄文化」となるのか、トレンドを興味深く見守っていきたいと思います。

*1:wikipedia:縄文クッキー