夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

鮭の町、新潟村上へ

 大学に入学して最初にできた友人S君は、新潟県村上市の出身でした。講義をサボって映画を見ていた私と違って、S君はたいへん真面目で、よく試験前にノートをコピーさせてもらったことを憶えています。

 そのS君のアパートに初めて遊びに行ったとき、地元の名産といって、鮭トバと日本酒を出してくれました。日本酒は、村上の銘酒「〆張鶴(しめはりつる)」でした。

 S君は、「こうして食べると美味しんだよ」といって、トバを日本酒に浸して食べていました。酒を飲み慣れていなかった私にとって、その食べ方は妙に大人っぽく見え、真似して飲み食いしているうちに、酔いつぶれてそのまま寝てしまいました。「新潟人、酒強し」とリアルに感じたものでした。

 そんなS君の故郷、新潟県村上市に先日はじめて行ってきました。

 村上で最初に向かったのが、鮭公園(サーモンパーク)にあるイヨボヤ会館という鮭の博物館です。「イヨボヤ」とは「鮭魚」という意味の村上の方言だそうです。
 
 村上を流れる三面川(みおもてがわ)は鮭の自然ふ化増殖に世界で初めて成功した地のようです。この鮭の保護・増殖に尽くしたのが村上藩士の青砥 武平治(あおと ぶへいじ)さんで、鮭が生まれた川へ帰ってくる習性(母川回帰)を早くから注目していた先駆的な方のようです。

 このイヨボヤ会館のすごいところは、単なる博物館ではなく、実際に三面川の分流を遡上する鮭の群れを直接ガラス越しに観察できるところでしょう。施設の地下に全長五十メートルのガラス張りのスペースがあり、運がよければ産卵シーンも見れるとのことでした。
 

 鮭を見たら、当然お腹が鮭ウェルカム状態となったので、向かいのサーモンハウスで「鮭せいろ」を頂きました。

 途中、観光案内物産センターで売っていた「イヨボヤ焼き」というたい焼き風なお菓子もなかなか美味しかったです。村上は北限の茶どころとしても有名なようで、生地に抹茶が練りこんでありました。
 

 村上市は城下町でもあり、町屋がいたるところで再生されているようです。鮭製品を扱う「味匠 喜っ川」さんに行きました。味のある町屋造りの店舗です。

 店舗の奥には、大量の鮭がぶら下がっていました。
 
 圧巻の「鮭カーテン」です。内蔵を抜いて、塩をかけたものを干した鮭のようで、燻製はしていないとのこと。塩蔵し、発酵させて日持ちを良くした製品のようです。お店では、塩引き鮭、鮭の酒びたし、鮭の生ハムなどを購入して帰りました。
 

 村上には、100種類以上の鮭料理があるようです。鮭を余すことなく使い切る料理に、鮭への思いの強さを感じます。特に、庭先に何気なく鮭がぶら下がっている風景が、私にはとても新鮮でした。

 S君がよく語っていた村上人の鮭への思いが、実際にその村上に来て、はじめて分かった気がします。S君とはじめて会ったのは今から約20年前。お互い就職してから連絡を取っていませんが、S君、元気ですか。残暑お見舞い申し上げます。