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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

なぜ「若者のビール離れ」が話題になるのか?

 暑い日が続いていますが、無類のビール好きにとっては最高の季節です。

 わたくし、飲み会ではほぼ最初から最後までビールです。とりあえずビール、もう一杯ピール、締めもビール。日本酒も好きですが、断然ビールが好きです。炭酸ののどごし、ホップの苦味、きめ細かい泡の風味、どれも最高です。

 私が最高に血が騒ぐ場所の一つは、ビール園です。「ビールの園(その)」というネーミングが、またたまりません。

 海外に行った際、その土地のビール工場見学したのは一度や二度ではありません。夢は、ビールの泡の上に体全体をフロートさせることです(身も心も)。

 ところで、巷でよく話題になる「若者のビール離れ」ですが、20才付近の若者をずっと”定点観察”しているとそれらが如実にわかります。飲み会で、ビールを飲む若者は年々減り、いまは1割にも満たないでしょう。特にお酒嫌いが増えたというわけではなく、甘いサワー、酎ハイ系は好んで飲んでいます。たまに、500mlくらいのビールが飲める学生がいると、「お酒、強ーい」と歓声が上がります。

 ビールの苦味は、ホップに含まれるフムロンが発酵過程でイソフムロンという成分に変わったものですが、もともと苦味は生物にとって毒である可能性が高いので、苦味成分をおいしいと感じるような体にそもそも私たち人間はできていません。動物が少量でも危険を認知することができるように、そもそも苦味化合物に対しては感受性が高くなっています。

 しかし一方で、安全である苦味成分には、嗜好性を高めて習慣性を強めるものがあり、食べ続けると”やみつき”になるものも多いです。例えば、お茶やコーヒーに含まれるカフェイン、ココアやチョコレートに含まれるテオブロミンなどです。

 「若者のビール離れ」を批判めいていう人たちも、きっと自分たちが最初にビールを飲んだときは「なんだ、このマズい飲み物は!」と思ったに違いありません。ビールを美味しく感じるためには、飲み続けることによって苦味が「不快→快感」へと変わる劇的転換が必要だからです。

 今ビールが大好きな大人も、最初はマズいと思っていたビールを、先輩や上司に勧められて無理して飲んでいたら、いつのまにか美味しくなっていたというクチではないでしょうか。こういう人たちが、ビールの苦味を超えられない若者を”苦々しく”思うのは、自分たちが超えてきた大人の壁(もしくは、超えてしまった壁)をはなから登ってこない若者に、なんとなく我慢が足りないとか、協調性がないといったある種のいら立ちを感じるからなのかもしれません。

 大人の「若者のビール離れ」批判は、「近頃の若いもんは、…」という若者批判の変化球版といったところでしょうか。

 逆に、今の若者がビールを飲まないのは、ビールに”没個性”や”集団主義的”といった前時代的な匂いを感じ、「大人の汚い世界になんて入るか!」と暗に抵抗しているかもしれません。まあ、考えすぎのようが気がしますが…。文字通り、「苦いのが苦手」というだけでしょうね、きっと。