夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

餃子の分子料理式

 大学1年生対象の少人数教育「基礎ゼミ」で、分子料理教室をやっています。

 前回、「私たちがよく食べる料理を『エルヴィ・ティスの分子料理式』で表してみよう」という宿題を課し、学生にその答えを発表してもらいました。その中からいくつか紹介しましょう。表現方法は以下のとおり。

要素その1(食材の状態)

  • G(ガス):気体
  • W(ウォーター):液体
  • O(オイル):油脂
  • S(ソリッド):固体

要素その2(分子活動の状態)

  • /:分散
  • +:併存
  • ⊃:包合、結合
  • σ:重層

 まず、大阪出身のN君が考えた分子料理式はこちら。

みそ汁
(S1+S2+S3)/W
S1:ねぎ、S2:豆腐、S3:わかめ、W:みそが溶けたお湯

 シンプルな式ですね…。鍋やおでんもSが増えるだけで同じような式になるでしょう。

 みそ汁の具といえば、確かにねぎ、豆腐、わかめです。みそ汁具材界の最強3トップです。これなら点が取れます。決定力不足も解消されます。しかし、N君は自己紹介でたこ焼きを焼くのが得意と言っていたのでたこ焼きの式を密かに期待していたのですが。

 続いて、千葉出身のK君が考えた式はこちら。

餃子
(S1+S2+S3+S4+O)⊃S5
S1:ひき肉、S2:にら、S3:にんにく、O:ゴマ油、S5:餃子の皮
wikipediaより

 K君は、実際にアパートで自ら餃子を作って、式を考えてくれました。具材を皮が包み込んでいるので抱合の「⊃」を使っています。餃子の皮は市販のものを使ったとのことなのでS5と一つの要素ですが、皮を手作するとS5はW/S6(W:水、S6:小麦粉)のようになりますね。

 最後、岩手出身のT君が考えてくれた分子料理式。これも実際に作ってみた料理とのこと。

豚肉炒め丼
S1σS2σ[S3⊃(S4/W)]
S1:ごはん、S2:千切りキャベツ、S3:豚肉、(S4/W):すりおろしタマネギ

 丼もので具材が重なっているので重層の「σ」を使っています。面白いのは、焼いた豚肉にすりおろしタマネギをからめているので抱合「⊃」も式に入れているところ。なかなかです。

 皆さん、料理を式で考えることはもちろん初めてだったので、なかなか苦戦したようです。料理の見た方がちょっと変わったようで、面白い経験にはなったでしょう。

 料理の式には完全な正解はないですが、材料をより細かく(本当に分子レベルまで)見ていくとさらに式は複雑になります。分子料理式は、「料理の骨格」を考えるのにいい道具になりそうです。

 さらに、分子料理式内の材料を変えたり、式を変形すれば、斬新な料理が生まれる可能性があります。たとえば餃子の式の「⊃」を逆にする、すなわち「小麦粉を野菜で包んだ餃子」なんてのを思いつきました。

 どうです、作ってみましょうか「逆餃子」?