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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

W杯日本代表、躍進の食事

 日本ではもう終わってしまった感のあるサッカーワールドカップですが、栄養学者としては、日本代表選手たちが大会中どんな食事を摂っていたのか気になります。

 読売新聞の記事から*1

食事・栄養管理

 試合で10キロ以上走り続けるには、試合の前、試合中の栄養管理が重要だ。今大会中、日本代表の食事は、日本から帯同したベテランシェフが担当。和食を中心としたビュッフェ形式だ。この食事で奨励されているのが鉄分の摂取。例えば、『レバニラいため』という料理名の脇に『鉄分』と記してあるという。これは高地での試合に向けた対策だ。

 国立スポーツ科学センター鈴木康弘研究員によると、酸素の少ない高地では、酸素を運搬する赤血球が増える。赤血球の増産には、血中や肝臓に貯蔵されている鉄分が使われるが、急速に減少すると貧血を起こし、疲れやすくなる。「貯蔵鉄はすぐに補給されないので、普段の食事から摂取しておくことが不可欠」という。

 GK川口能活は「レバー、モツ系、ウナギは出ていますね。鉄分が高地対策にいいことは、みんな知識としてありますから、とるようにしています」と話す。

 前回ドイツ大会では、残り30分で足が止まった選手がいたことに、「栄養管理が不十分だった可能性がある」とする専門家もいる。この反省から岡田監督は、メニューにも細かい注文を出しているという。

 川口は、「確かにあの時は暑くて、食べる量が少なく、栄養がちょっと不足した選手もいたんじゃないですかね。今回はよく食べられている。食事って、やはり最高の楽しみの一つですし、こちらで和食が食べられるのは大きい。みそ汁とか納豆……」という。

 代表のメニューづくりにかかわった立教大コミュニティ福祉学部の杉浦克己教授によると、試合前日からは、脂肪分を減らし、炭水化物の多い食事に切り替わる。「炭水化物に含まれる糖類は、グリコーゲンとして肝臓や筋肉に蓄積される。これが強度の高い運動時に分解され、エネルギー源を生み出し、パワーになる」。

 ブランチ=杉浦教授提供

 試合3〜4時間前にとる軽食も、炭水化物系に、エネルギー産生にかかわるビタミンB1などが中心だ。
 開始3時間前=杉浦教授提供

 試合中はハーフタイムにエネルギーを補給。でんぷん分解物をベースに、エネルギーを作り出すのに不可欠なクエン酸などを加えたドリンク(約150キロ・カロリー)を飲む。「急激に血糖値を上げるとインスリンが分泌され、一時的に低血糖になって運動には不利なので、血糖値を刺激しないで素早く吸収できるように工夫してある」と杉浦教授はいう。

 試合後、消耗した体の疲労回復にも栄養は不可欠。試合直後に水分75%、糖分20%、たんぱく質5%程度が含まれたゼリーを飲む。傷んだ筋肉の修復が加速される。また、なるべく早くにバランスのよい食事をとることで疲労も癒やされる。

 W杯は、こうしたピッチを離れた所での工夫と研究を含めての総力戦なのだ。

(2010年6月22日 読売新聞)

 上のブランチの写真は、食べることが仕事だということがよくわかるメニューです。グリコーゲン蓄積のためのまさにアスリートメニューですね。

 また、朝日新聞の記事では、次のようなニュースも*2

「圧力鍋が立役者」 W杯日本代表の帯同シェフ語る

 サッカーW杯南アフリカ大会で16強入りした日本代表の帯同シェフ、西芳照さん(48)が3日の記者会見で「圧力鍋が一番の立役者」と語った。

 福島・Jヴィレッジレストラン総料理長。高地では沸点が低く、普通の炊飯器ではご飯がおいしく炊けないと事前に知り、大きな圧力鍋を持参して対応した。

 「おかげで選手の食欲も落ちなかった」とか。南アには福島産の米、みそ、ラーメンなどを持参。「食材も残っていたので、もう少し選手と現地にいたかった」

(asahi.com 2010年7月4日16時0分)

 今回の日本代表の活躍の背景には、高地対策がうまくいったことが大きく関係しているでしょう。日本のマラソン選手などのこれまでの栄養データが蓄積していたことが、好影響につながった要因の一つです。

 また、各国の食事の様子を、ロイターが伝えています*3

サッカー=熱戦続くW杯、食事情から見るチームカラー

ヨハネスブルク(南アフリカ) 14日 ロイター] サッカーのワールドカップ(W杯)南アフリカ大会に出場する各国代表チームの原動力となるのが、やはり食事だろう。なじみの味を本国から持ち込むケースが多く、各国の食事情からもチームカラーが伺える。

 ◎フランス
 南部クニスナの海岸沿いにある高級リゾートホテルに滞在するフランス代表は、とにかくバゲット(フランスパン)をよく食べる。ホテルのヘッドシェフによると、1日に焼く本数は当初10本だったが、現在は80─90本。最高で120本程度に増えると見込まれている。

 ◎ウルグアイ
 ウルグアイ代表は、牧草で育てた高級牛の肉約1トンを本国から持ち込んだ。広報担当によると、ラテンアメリカの伝統的デザートである液体状のキャラメル「ドゥルセ・デ・レチェ」も大量に用意したという。

 ◎アルゼンチン
 アルゼンチン代表もステーキ肉を本国から持ち込む計画だったが、南アフリカ当局からの許可が下りずに断念。代表チームが滞在するプレトリア大学関連施設のシェフは、マラドーナ監督には「求められたものを提供しており、これまでのところ特に問題はなく」、何かと問題が多いという評判とは異なる印象だという。

 ◎イングランド
 イングランド代表は、レオナルド・ディカプリオなどハリウッドスターを顧客に持つセレブシェフのティム・デアス氏が厨房を指揮。同氏によると、代表選手は最大限の力を発揮するために適切な食事が求められる「競走馬」のようなもので、健康的な食事に加え、ホットチョコレートなども午後の間食として提供しているという。

 ◎メキシコ
 メキシコ代表は、同国の伝統的料理トルティーヤを南アフリカで手に入れるために一苦労している。広報担当によると、製造業者が地元客を優先するためで、選手らはトルティーヤのために列を作って待たなければいけないという。

 ◎ブラジル
 ブラジル代表のチームシェフ、ジャイミ・マシエールは本国でグアバペーストを大量に仕入れ、甘党の選手たちに提供している。

 ◎イタリア
 イタリア代表も、ピザやパスタ、スパークリングワインを相当量持ち込むなどして、自国と同じような食環境を実現している。

(2010年 06月 15日 15:51 JST)

 ベスト4に残った、ウルグアイ、オランダ、ドイツ、スペインのうち、ウルグアイの食事情しか載っていないのが寂しいです…。

 一方で、こんなニュースも*4

<W杯>食事すらなかった貧しい日々を乗り越えて=北朝鮮代表、44年ぶりの戦い―中国メディア

2010年6月16日、中央人民広播電台は、南アフリカW杯に出場している北朝鮮代表に関する記事を掲載した。飲み物すら十分にない苦しい状況を乗り越え、今、44年ぶりのW杯での戦いに臨む。

1999年、上海での国際大会に出場した北朝鮮代表。無料の昼食がなかったため、ホテルから分けてもらったジュースを飲んで飢えを凌いでいた。そんな彼らだったが、中国代表から2点を奪い勝利した。試合後、北朝鮮代表の選手たちは中国代表選手が投げ捨てた水を飲み、旧式のカメラで記念撮影していた。2000年の大会でも4〜5人の選手がお金を出し合って、ようやく1本のコーラが買える状態。閻世鐸(イエン・シードゥオ)中国サッカー協会主席(当時)は北朝鮮代表の練習風景を見て、涙を流したという。

こうした厳しい環境を乗り越え、ついに北朝鮮サッカーは春を迎えた。快挙を成し遂げたサッカー代表に北朝鮮政府幹部も注目、待遇も改善された。今回は専門の料理人を連れての南アフリカ入りで、3食栄養のある食事をとっている。ちなみに料理の手順は秘密で、ホテル従業員もキッチンに入ることを禁止された。北朝鮮料理以外でもハンバーガーやピザが選手たちに人気。惜しくも敗れたブラジル戦の直前には伝統料理のもちを食べたという。

また、北朝鮮代表選手のほとんどはナイキのスパイクを履いているが、実はスポンサーが提供したものではない。米国在住の北朝鮮移民たちがお金を出し合って寄付したもので、エースFWチョン・テセ鄭大世)のスパイクも例外ではないという。(翻訳・編集/KT)

(2010-06-17 20:59:36 配信)

 国が総力を上げて望むワールドカップ。栄養面でも、いろいろ考えさせてくれることの多い大会です。

*1:[http://www.yomiuri.co.jp/wcup/2010/feature/kagaku/20100622_01.htm:title=サッカーの科学 : 企画・連載 : ワールドカップ2010 ]: YOMIURI ONLINE(読売新聞)

*2:asahi.com(朝日新聞社):[http://www.asahi.com/worldcup/japan/TKY201007030316.html:title=「圧力鍋が立役者」 W杯日本代表の帯同シェフ語る - サッカーワールドカップ]

*3:[http://jp.reuters.com/article/jpWorldcup/idJPJAPAN-15827920100615?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0:title=再送:サッカー=熱戦続くW杯、食事情から見るチームカラー] | Reuters

*4:レコードチャイナ:[http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=43007:title=<W杯>食事すらなかった貧しい日々を乗り越えて=北朝鮮代表...]