夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

海藻をご飯にする細菌

 WIRED VISIONのニュースから*1

日本人の腸だけに存在?:海藻を消化する細菌

「海洋細菌の中で、藻細胞壁の分解を行なう酵素を特定した」とフランスのStation Biologique de Roscoff(ロスコフ海洋生物研究所)の生物学者、Mirjam Czjzek氏は述べている。「この酵素が見つかる他の場所は1つしかない。それは日本人の腸に見られる細菌の中だ」

(中略)

研究者たちによると、この酵素はZ. galactanivoransが紅藻類を食べるのを助けるという。紅藻類の中で西洋人にとって最もなじみが深いのは、巻き寿司の周りに巻かれている海苔だろう。[紅藻類は、セルロースと厚いゲル状多糖からなる細胞壁を持っており、これが海苔や寒天など、紅藻から作られる製品の原料となっている]

日本人の過去において、どこかの時点の誰かの腸で、この酵素をコード化する遺伝子が、Z. galactanivoransからB. plebeiusに入り込んだのだ。この幸運なB. plebeiusは、紅藻類を処理するという新しく得た能力を活用して腸環境に広がり、最終的には日本人の集団に広がって、彼らの海藻をたくさん食べる食事習慣から、さらに多くの栄養を得るようになったのだろう。

 人の腸内には100兆個の細菌が住んでいるので、海藻を分解する菌がいても何ら不思議ではありませんね。

 以前、アフリカでイモだけしか食べない民族がいて、栄養学的には全くタンパク質(窒素)源を全く摂取していないにもかかわらず、体格がしっかりしていることを不思議に思った研究者がいろいろと調べた結果、腸内に窒素源を固定する菌がいたという驚くべき事実を発見したという話を思い出しました。

 人は栄養バランスが多少偏っても、急に体に変調が訪れるわけでなく、ある程度”ゆらぎ”に対応出来るシステムを備えています。栄養価値のない海藻を価値あるものに変換してくれる腸内細菌達は、そんなバランス調節に役立っているのでしょう。

 人間が消化できないような食べ物も、腸内にいる微生物が人間に対して有益な形に加工してくれるものは十分ヒトの食べ物だといえます。

 ヒトの栄養を考える場合、ヒト本体だけで考えてはダメで、「ヒトは、ヒト本体とその周辺の微生物の複合体である」として捉えなければならないと改めて感じました。

*1:[http://wiredvision.jp/news/201004/2010040923.html:title=日本人の腸だけに存在?:海藻を消化する細菌 | WIRED VISION]