夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

味覚は「言葉」によって発見され「レセプター」によって完結する

 日本では味覚といえば、甘味、塩味、酸味、苦味、旨みの5種類が基本ですが、欧米では、甘味、塩味、酸味、苦味の4種類が長らく基本味として考えられてきました。

 旨みの登場は、日本人の池田菊苗がうま味成分のグルタミン酸ナトリウムを発見したのが始まりですが、それまで、なんとなく感じていた「うまみ」をきちんと言葉で表すことができたことが偉大な功績のキーポイントだったのではないかと思います。


 今では、「Umami」は世界共通語ですが、欧米ではそれまで旨みに対応する言葉がありませんでした。言葉が無いというのは、概念として存在しないということです。

 そのため、日本人が最初に提唱した「旨み」という味覚は、最初は欧米人には受け入れられなかったようです。自分たちの概念になければ、この世にないと思うのもいわば同然です。

 日本の「旨み」が世界の「Umami」に変わったのは、うま味物質グルタミン酸を認識するレセプター(受容体)がきちんと舌に存在するということが科学的に証明されてからです。生理学的な証拠が、旨みの存在の動かぬ証拠となったわけです。

 現在、味覚の研究分野でいろいろなレセプター探しが行われています。例えば、肉や魚の脂には独特のおいしさやコクを感じますが、脂の受容体が存在するのではないかと考えられています。第6の味覚、いわゆる「脂味」です。

 新しい味覚の発見は、まず頭で考えた概念上の「言葉」の発見があり、その後、そのレセプターが発見されることで完結するのでしょう。