夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

受験生のための”ブレインフード”


 16日、17日と大学入試センター試験があり、試験を受けた受験生、センター会場で試験運営に携わった大学の教職員の方々などは、お疲れ様でした。今年、私は試験監督に当たらなかったので、通常の休みを取ることができました。

 これから本格的な受験シーズンが始まります。受験生は日々の体調管理とともにやはり食生活の管理も大変重要になってきます。「頭が良くなる食べ物」があればと思う受験生も多いでしょう。
 特にここ数年は「脳トレ」をはじめとする”脳”ブームが続いており、脳を活性化する”食”、すなわち「ブレインフード」にも注目が集まっています。

 現在、じつに怪しいブレインフードが世の中に出回っていますが、その科学的根拠(エビデンス)は乏しいものばかりです。科学的に明らかにされている脳活性化食品を紹介します。

そもそも、ブレインフードとは何か

 「Brain Food(ブレインフード)」とは、もともと米国で深刻なアルツハイマー病の対策方法として考えられていたものが、日本では老人性認知症の予防・改善だけでなく、より広い意味で、すべての人のための「脳機能改善食品」として定義されています。

アルツハイマー病と食事栄養の関係からわかったこと

 大きく分類して以下の2点が、アルツハイマー病と食事栄養に関する疫学的な知見から明らかになっています。

  • 野菜・果物による予防*1, *2
  • 魚による予防*3, *4

野菜・果物による脳の老化予防

 脳の重さは体重の2〜3%に過ぎませんが、体の全消費エネルギーの20%をも消費しています。エネルギー消費過程で生じる”活性酸素”などのフリーラジカルによって、脳の老化が進行するという説があります。脳にはもともとフリーラジカルの防御システムががありますが、低分子の抗酸化物質は食品として摂取し続けなければなりません。
 食品由来の低分子抗酸化物質としては、カロチノイド、ビタミンC、ビタミンEカテキンポリフェノール、フラボノイドがあります。
 抗酸化物質の供給源としてもっとも重要なものは、野菜・果物です。アルツハイマー病患者に野菜ジュースを毎日400ml飲んでもらったところ、飲まない群に対して認知機能の低下速度が低下するとのデータがあります。

魚による脳の老化予防

 脳は極めて脂質が多い臓器で、乾燥重量の50〜60%が脂質です。神経細胞膜の脂質は、中でもリン脂質が全体の50〜60%と最も多く、そのうち食事から摂らなければならない必須脂肪酸の”DHA”と”アラキドン酸”が21%を占めています。
 必須脂肪酸は脳で、

  • アセチルコリンの前駆体
  • プロスタグランジンD2(睡眠)やプロスタグランジンE2(体温)などの生物活性を有すること
  • シグナル伝達
  • 膜の流動性を高め、受容体、イオンチャネル、酵素の働きを高める

などの役割を果たしています。
 魚の摂取アルツハイマー病を予防するというデータが多数出ており、特にn-3/n-6 PUFA(多価不飽和脂肪酸)比の高い(リノール酸よりもリノレン酸、DHAが多い)食事が有効とされています。

受験生のためのブレインフード

 アルツハイマー病の発症を防ぐ”ブレインフード”には、野菜・果物と魚が最も有効な食品であることが、疫学的な研究や、最近では脳そのものの研究などから次第に明らかになってきています。

 もちろん、野菜と魚を食べていれば、脳が活性化するという訳ではありません。さらに、食品成分だけに過剰な効能を求めて、ビタミンやDHAだけをサプリメントなどで摂り、食事全体をおろそかにすることは、”フードファディズム”といって、むしろ体に有害とされています。

 受験生のためのブレインフードは、老化を防ぐブレインフードと違い、野菜と魚を積極的に摂ることはもちろんですが、脳はエネルギー源としてブドウ糖しか用いることができないため、受験前日や当日は積極的に甘いものも摂る必要があるでしょう。

 なんにせよ、脳も体も活性化するには、バランスの良い食事が基本中の基本です。

*1:Morris MC, Evans DA, Bienias JL, Tangney CC, Bennett DA, Aggarwal N, Wilson RS, Scherr PA. Dietary intake of antioxidant nutrients and the risk of incident Alzheimer disease in a biracial community study. [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12076219?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=1:title=JAMA 2002 287(24):3230-3237].

*2:Engelhart MJ, Geerlings MI, Ruitenberg A, van Swieten JC, Hofman A, Witteman JC, Breteler MM. Dietary intake of antioxidants and risk of Alzheimer disease. [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12076218?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=2:title=JAMA 2002 287(24):3223-3229].

*3:Morris MC, Evans DA, Bienias JL, Tangney CC, Bennett DA, Wilson RS, Aggarwal N, Schneider J.
Consumption of fish and n-3 fatty acids and risk of incident Alzheimer disease. [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12873849?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=1:title=Arch Neurol 2003 60(7):940-6].

*4:Barberger-Gateau P, Letenneur L, Deschamps V, Peres K, Dartigues JF, Renaud S. Fish, meat, and risk of dementia: cohort study. [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12399342?itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_RVDocSum&ordinalpos=1:title=BMJ 2002 325(7370):932-3].