夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

カクテルと地酒

 外山滋比古さんの「ライフワークの思想」中の文章が実に心に染みます。

 初版は30年も前に出されたものですが、現代においてもその有効性を全く失っていません。ベストセラーになった「思考の整理学」では、”グライダー型人間”と”飛行機型人間”の比喩が絶品でしたが、この「ライフワークの思想」でも、”カクテル思想”と”地酒思想”という実に素晴らしい比喩があり引き込まれます。本文からそのエキスだけ抜き出してみます。

 バーテンダーはさまざまな酒をまぜてシェーカーを振れば、カクテルを作ることができる。しかし、実は酒は一滴も作っていない。
 酒でないものから酒を作ったとき、初めて酒を作ったといえる。ただし、その過程で失敗すれば酢ができてしまうこともある。
 うまく発酵して、いい地酒ができれば、それが本当の意味で人を酔わせる酒を作ったことになる。

 研究者、特に大学人は、世界でまだ誰もしていない独創的な仕事をしたいという願望を強く持ち合わせている人種です。しかし、私も経験がありますが、新しいことをしているようで、実は他人が作った酒をただ混ぜ合わせたカクテルを作ってただけということがよくあります。

 まずい”ドブロク”でもいいので、自分のラベルが貼られた地酒を作っていきたいものです。

ライフワークの思想 (ちくま文庫) 思考の整理学 (ちくま文庫)