読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

留学日記 - カナダで食用禁止魚を食べた -

 前回のブログ*1に出てきた「アブラソコムツ」という有害魚。私は食べたことがあります、留学していたカナダで。その時に書いた日記を再アップします。

- カナダで食用禁止魚を食べた -

 日本民族たるもの、肉食中心の食生活が続くと、やはり魚が食べたくなるものである。近くのスーパーに売っているアトランティックサーモンは確かに美味しいのだが、脂がたっぶりとのっているのでそればかりだと飽きてしまい、韓国食材店で『銀鱈』と表示のチリ産の冷凍魚を買った。それが事の発端だった。
 買ってから何日か過ぎ、夕食にその銀タラを食べることに。日本の銀タラの二倍の大きさの切り身で、タラにしてはちょっと大きいなぁと不思議に思ったものの、煮魚にして食べた。味は日本の銀タラに比べて水分が少ないと思ったが、別にぱさぱさした感じはなく、久しぶりの煮魚に感動しつつ美味しく頂いた。
 最初の異変は数時間後に訪れた。胃が少し重く感じられ、やや吐き気を催した。だがその日は大して気にもせず、そのまま寝た。そして翌日、昨晩の気持ち悪さをすっかり忘れていた昼頃、トイレで今までにない状況に遭遇し、驚き、早めに家に帰ってきた。家に帰ってから、私が体験した症状をウェブサイトでいろいろ調べると、それは「ラー油症候群」という聞き慣れない症状であることがわかった。
 このラー油症候群は、銀タラもどきの深海魚「アブラソコムツ」という魚を食べるとなるらしい。この魚は体の20%以上が人間が消化できないワックス成分であるため、それを食べると油脂だけが消化されずに肛門からそのまま出てきてしまうのだそうだ(便がラー油状になる)。しかも全くの不随意なので、わずかなコントロールも効かず、それだけが出てくるらしい。いわゆる「下痢」とは違い、腹痛もない。
 このアブラソコムツ、日本では食品衛生法で食用禁止魚に指定されており、流通が禁止されている。有害魚として、発見時はすべて破棄の措置を取らなければならない。実際、刺身三切れぐらいだと食べても問題ないらしいが、私が食べた量は優に10切れ以上であった…。火で炙り油を落とすなどして食べるならば問題ないらしい。味は美味しいので漁師さんはこっそり食べていたりするとのこと。そんな日本で流通に乗らないような「幻の魚」をカナダで食べることになるとは…。
 症状は一回きりの事が多く、慢性化はしないらしい。アブラソコムツのワックスは彼らが深海から浮上するときに役立つらしいが、私の気持ちは今回の件で深海の底の底の方まで沈んでいったのであった…。

 ラー油症候群は、体調が悪くなったことよりも精神的ショックの方が大きかったです。自分の意図とは関係なしに、パンツがいつの間にか汚れていて、悪臭を放っていましたから…。魚の脂が、腸の中をまさに「スルー」した感じでした。

 そのアブラソコムツとはこんな魚です。

東京都福祉保健局:アブラソコムツ-厚生省通達による有毒魚より

 アブラソコムツの味自体は、脂が載っていてとても美味しかった記憶があります。ただ、食べた人間から言わせてもらうと、食べない方が身のためです。食べた半日後に、下半身に”悲劇”が訪れますから。

*1:食品研究者の夜食日記:寿司ネタをDNAバーコードで鑑定