夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

食は見た目が9割?

 今話題のスーザン・ボイルさんは、その容姿と美しい歌声とのギャップから時の人となりました。私的には、歌に見た目は関係ないだろうとずっと思っているのですが、歌を歌うことを生業にしている人は、総じてビジュアル的に優れているのが現状だったりします。

 また、「人は見た目が9割」という身もふたもないタイトルの本が、100万部を超えるベストセラーとなりました。
人は見た目が9割 (新潮新書)

 歌手も、政治家も、お笑いも見た目が重要視される傾向が強まるなか、「食べ物のおいしさも見た目が9割ではないか?」というある実験例を紹介します(食品工業6月15日号より)。

 ある大学で「チョコレート実験」が行われました。概略を説明すると、毎日チョコレートを食べるという女子学生を実験参加者として、コンピューターの画面のみが映し出される特殊な眼鏡型のモニターを装着してもらい、食べたチョコレートの味(苦さ)について評定してもらうというものです。実験に用いたチョコレートは、苦みの強いブラック、甘みが特徴的なハイミルク、その中間の風味であるミルクです。

 実験参加者が装着しているモニターには食べているチョコレートのパッケージを映し出している場合と、食べているものとは異なるパッケージを映し出している場合があります。


 このチョコレート実験で、チョコレートの苦さを、0「全く苦くない」、100「かなり苦い」と評定した結果が右の図です。横軸の上段が映像、下段が試食品を表しています。その結果、右図の網かけで示したように、同じミルクチョコレートを食べていても、ブラックのパッケージを見ながら評定した時はチョコレートを苦く感じ、ハイミルクのパッケージを見ている時は甘く感じるという結果となりました。つまり、実験参加者は、実際に食べているチョコレートの味を客観的に判断しているわけでなく、見ているパッケージによって味が見事に左右されているということが分かります。

 この実験で分かることは、人は決して舌だけで味わっているのではなく、”目で味わっている”、”脳で食べている”ということです。9割は言い過ぎかもしれませんが、おししさの半分以上は、実は見た目なのかもしれません。

 味の感じ方にはこのような特性があるので、たくさんのCMが流れている商品をおいしく感じ、また、偽装された食品ラベルに消費者はいとも簡単にだまされてしまう訳です。
人間は脳で食べている (ちくま新書)