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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

飲むコラーゲンの常識・非常識


 「コラーゲンを飲んで肌を若く美しく」とか「コラーゲンを飲んで内側からハリのある肌に」というキャッチフレーズの商品をドラッグストアなどでよく見かけます。

 これらの広告を信じてコラーゲン飲料をせっせと飲んでいる研究者がいたら、その研究者の研究能力は大いに疑われるでしょう。栄養学の”いろは”を知らないからです。

 食べた物はもちろんそのまま体に取り込まれるわけではなく、消化されて小さな分子になってから吸収されます。分子生物学者の福岡伸一さんのたとえを引用すると、”水にインクを垂らすとインクが水面に広がるように”、栄養成分も全体の隅々に広がっていきます。

 コラーゲンを食べれば、胃や腸で分解され、アミノ酸やペプチドとして体に吸収されて体全体の栄養分として使われます。もちろん、シワのある部分にだけ運ばれるわけではありません。

 また、純粋なコラーゲン自体は、決して良質のタンパク質ではありません。コラーゲンは必須アミノ酸9種類のうちトリプトファンが全く含まれていないので、アミノ酸スコアは0です。普通の肉や卵や魚のアミノ酸スコアは100ですから、純粋なコラーゲンの栄養価は決して高くないのです。

 以上のようなことが科学者や栄養学を学んだ者にとっては常識なので、「飲むコラーゲンなんて、肌に効くはずがない」となるわけです。

 食品学的には、食品には3つの機能があるといわれています。上で述べた栄養学的な一次機能、食べて美味しいと感じる二次機能、病気から体を守る生理的な作用の三次機能です。

 今、コラーゲン摂取で注目されているのが、コラーゲンを食べて生じたペプチドが、食品の一次機能以上の効果を持つのではないかというものです。つまり、コラーゲンペプチドが、体の中にある細胞に働きかけて、コラーゲンの合成を促進し、「ハリのある肌にする」という考えです。

 食品タンパク質から生じるいろいろなペプチドは、血圧を下げる効果や、免疫系を調節する効果などさまざまな生理的作用を有することが報告されているので、コラーゲンペプチドに「コラーゲン合成促進効果」があってもおかしくはありません。実際、そのような科学的データもいくつか出始めているようです。私は「なぜ効くか」という作用メカニズムまで分からないと、納得しませんが…。

 「飲むコラーゲンで肌がきれい」は、今のところ科学の世界では”非常識”ですが、今後の研究の進展によっては”常識”になる可能性もあります。科学の世界で、常識がひっくり返された事例はこれまで何度もありますから…。