夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

Re: ワインへの酸化防止剤添加は必要悪? - 「神の雫」作者のノムリエ日記

 asahi.comの記事から*1

ワインへの酸化防止剤添加は必要悪?

 酒の飲み過ぎ、不規則な生活……などなど、体に悪いことをイヤというほどしている私は、せめて食べ物だけは気を使おうと心がけている。例えば米や野菜は無・減農薬栽培のものを、半加工品、調味料の類は化学調味料無添加のものを選ぶようにしている。

 なーんてことを飲み友達に話すと、「食品添加物とか気にしてるけど、ワインはどうよ。酸化防止剤とか、必ず入ってるじゃない」と、ツッコミを入れられることがある。

 確かに、世界で売られているほとんどのワインは、酸化防止剤の亜硫酸塩が添加されている。一山いくらの安ワインでも、天下のロマネ・コンティでも、その点は同じだ。ただしワインに酸化防止剤を入れるのは、コンビニ弁当のそれとは意味が違う。むしろ高品質のワインを作ろうとすれば、酸化防止剤は必要かもしれないとさえ私は思っているのだ。

 じつはワイン作りの工程において、酸化防止剤は大いに活躍している。まず最初に、酸化防止剤は発酵が始まる前の葡萄果汁に添加される。これによって果汁は痛まないで済むし、雑菌の繁殖も抑えられる。さらに、ワインが完成して瓶詰をする際にも再度添加されるが、これは瓶の中に残った空気や、寝かせている間にコルクを介して出入りする微量の酸素によって、ワインが酸化するのを防ぐためである。だから、長期熟成を前提としたワインはほとんどが酸化防止剤を添加している。フランスでは亜硫酸塩を入れるのが当たり前で、添加物としての表示義務もない。

 以上のような理由で、ワインにとっての酸化防止剤は必要悪のようなものだと私は割り切っているのだが、最近年を取って化学物質に過敏になったのか、酸化防止剤がちょっと多めに入っている(と思われる)ワインを飲むと、頭痛がするようになってしまった。ワインも10年20年寝かせていると、酸化防止剤が揮発する(?)らしく、古いワインで頭痛は起きない。しかしリリース直後のワインを飲むと、2回に1回は頭痛に見舞われる。傾向としては、赤ワインより白ワインの方が重症化する。またこの頭痛は一度始まるとなかなか治まらず、ひどい時は丸一日続く。メルシャン社のワイン情報サイトによれば「亜硝酸塩は体重50Kgの人が毎日9リットルずつ90日間ワインを飲み続けても、慢性毒性の症状は起きないという動物実験データもある」とのことで、この頭痛が亜硝酸塩のせいなのかどうか定かではないのだが……。

(以下略)

朝日新聞 2009年5月20日 筆者・亜樹 直

 無菌的にブドウを栽培し、無菌的にブドウを収穫し、無菌的にワインを製造できるのであれば、酸化防止剤は必要ないかもしれません(菌が食品中に増えるのと、食品成分の酸化はまた別の問題ですが…)。しかし、常識的に考えて、ブドウの絞り汁が、何も添加物を入れない状態で、何年も保存できる訳がないでしょう。長期間熟成させるワインに「酸化防止剤」は「必要かもしれない」のではなく、「絶対に必要」なのです。

 食品添加物を単純に「善悪」だけで判断すると、「神の雫」作者のように、「普段は無添加食品を選ぶけど、ワインだけは添加物が入っていてもOK」のように矛盾が生じてきます。ワインに酸化防止剤を入れるのと、コンビニ弁当に酸化防止剤を入れるのは違うと書いていますが、どちらも食の「美味しさ」と「安全」を守るいう点では同じではないでしょうか。

 どんな人にも良い所と悪い所があるように、食品添加物にはメリットとデメリットがあります。「食品添加物=悪」の認識が強い社会では、食品添加物の利便性が見失われがちです。

 今の大都市に人が住めるのも、冬に食料がなくならないのもすべて食品が安定的に保存できるシステムがあるからです。保存が利く加工食品にはたいてい添加物が使われています。

 日頃、食品添加物の恩恵をふんだんに受けている人が、食品添加物を否定する発言をするのを聞くと私は無性に腹が立ちます(亜樹 直さんのことではありません)。さんざん世話になった人に、恩を仇で返すようなものです。食品添加物を非難できる人は、食品添加物に世話になっていない、100%自給自足の人しかいないはずです。

 「ノムリエ日記」では「亜硫酸塩(ありゅうさんえん)」と「亜硝酸塩(あしょうさんえん)」が混乱して使われていましたが、ワイン製造に使われるのは「ありゅうさん」のほうで、「あしょうさん」の方はハムなどの発色剤として使われる別の化合物です。似ていて間違えやすいので、ご注意を。

 メルシャンの酸化防止剤(亜硫酸塩)のページはこちら

*1:asahi.com(朝日新聞社):ワインへの酸化防止剤添加は必要悪? - 「神の雫」作者のノムリエ日記 - 食と料理:http://www.asahi.com/food/column/nommelier/TKY200905200167.html