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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「生キャラメル」がヒットした理由

 日本人ほど”生食”にこだわってきた国民はいないでしょう。寿司、さしみなど、今でこそ魚介類を生で食することが世界的に広がりましたが、ほんの数十年前は「生食は野蛮だ」と世界で言われていた時代でした。

 また、卵かけご飯が一時期ブームとなりましたが、アメリカ人のような外国人にとって卵を生で食べるのは信じられないといいます。卵のサルモネラ汚染を心配していることもありますが、白身のキュルとしたのがダメという人が多いと聞きます。

 ビールも「生ビール」といわれたほうが数倍美味しく感じますし、ハムというよりも「生ハム」のほうがなにか高貴な感じがします。これらの生は、「加熱していない」という意味ですが、前から私が気になっていた「生」の食品があります。

 それは、「生クリーム」です。生クリームは、牛乳から遠心分離後、加熱殺菌されて製造されます。殺菌方法には、70℃30分の低温長時間(LTLT)殺菌、85℃10秒の高温短時間(HTST)殺菌、120~130℃2~15秒の超高温(UHT)殺菌などがあります。加熱処理しているので、生クリームは決して”生”な食品ではないのです。

 食品関連法規(乳等省令)では、”生”は付けずに、単に「クリーム」と表記されます。一般的な呼び名が生クリームなのです。

 「生チョコレート」、今大人気の「生キャラメル」も生クリームを使っているから、冠に”生”を付けているのでしょうが、そもそも生クリーム自体が生ではないので、私は「生キャラメル」という言葉を聞くたびに、「一体何が”生”なんだ」と突っ込みたくなる衝動に駆られます。

 日本人が”生”好きなのは、日本語の生に対応する英語を比較するとよく分かります。例を以下に挙げます。
 生野菜 → fresh vegetables
 生卵 → raw egg
 生ハム → uncured ham
 生ビール → draft beer
 生水 → unboiled water
 生ワクチン → live vaccine
 このように、”生”という言葉は、多様な意味の英語を一言で置き換えることができる大変便利な言葉です。

 日本人が”生”を多用するのは、”生”に「新鮮」というニュアンスを感じるからでしょう。「生=新鮮=美味しい」と連想する日本人の心が、生キャラメルのヒットに少なからず影響を及ぼしたと思います。そのため、生キャラメルは、味もさることながら、ネーミング勝ちだったと言えるでしょう。

 次はどんな”生”の付いた食品が市場に登場してくるか私は楽しみです。